□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ SEIB-DGVM 保留事項 (2017年12月27日最新版) 佐藤永(JAMSTEC) http://seib-dgvm.com/hsato/ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ■■■■■■■■■■■■■ 植物個体群動態 ■■■■■■■■■■■■■ ●GDD5maxによる定着率制御を全体に無くす。Loehle et al. (1998)によれば、樹種の南限を決めているのは、成長速度であって、高温ストレス耐性では無いから。 ●熱ストレスの導入 Tei et al.,(2017) GCB を参考に、SEIB-DGVMに熱ストレスなどによる成長の低下因子を、亜寒帯域の木本PFTに組み込む。 Our comparisons demonstrate that current versions of DGVM do not reproduce the negative effect of warming on tree growth/carbon uptake, resulting in a discrepancy in the trend from past to present, and to future between RWI- and DGVM-based estimates of tree growth. ●落葉広葉樹にとっては、分布の北限と導管の太さは無関係だが、常緑広葉樹にとっては、導管が細い種ほど寒冷地に分布できる。針葉樹は仮導管が細いので、エンボリズムに強いが、その代わりに夏でも水を十分供給できず、また気孔を大きく開けることができないため光合成能力は低い。そのため、温暖な土地では常緑広葉樹に勝てない。このようなメカニズムを扱う事ができるようにしたい。 葛西奈津子 (2007)『植物が地球をかえた!』日本植物生理学会 監修 , 4章P89, 化学同人 ●温帯性の広葉樹と針葉樹の適応環境範囲 前者は湿潤な環境、後者は乾燥してやせた環境に適応している場合が多い。このような生育地の選好性は、的確に扱えていない。 ●LPJより得た定着条件が妥当であるかどうか確認する。また、LPJではBioclimatic limitが定着と死亡の双方にかかっており、SEIB-DGVMもこれに倣っている。ゴチャゴチャしてややこしいので、これを定着のみに統一させる事ができないか検討する。LPJでは定着条件をPrentice et al. (1992)より引用しているが、この論文でも確固たる根拠抜きに諸条件を与えているようである。 ●木本PFTが定着する際に必要な林床照度条件は、過去一年間の平均照度がパラメーターPARminを超えていることとしている。しかし、本来は一年間の平均照度ではなく、成長期間中の平均照度を参照するべきである。 ●タイムステップを短くした場合のBioclimatic limitのあてかたは、OCHIDEEが参考になる? ●本来、林床LAIが高いときには、木本PFTの定着が阻害されるが、これをカラマツ林以外はモデルは無視している。カラマツ(BND)の場合は、山火事後50年間のみ定着できるという仮定で、このプロセスを考えている。もう少し、まともなやり方を考える。 ●火災以外の要因による攪乱を含める。大きな個体が倒れた時の周辺個体の巻き込み(熱帯多雨林では導入済み)、台風による大個体の選択的排除、など。 ●各PFTの寿命 木本PFTごとに寿命を与えているが、これにはさしたる根拠があるわけではない。熊谷氏がSEIBをベースとして作成したSTeDYモデルでは、メカニカルに表現することに成功しているとのこと。 ■■■■■■■■■■■■■ 土壌有機物の分解 ■■■■■■■■■■■■■ ●Bond-Lamberty & Thomson (2010) Nature 464 によると、土壌炭素分解速度のQ10値は1.5程度。 SEIBに組み込んでいるLloyd and Taylor (1994)の関数との定量的整合性をチェックすること。 ●リター分解速度の改善 リターは1種類のみを仮定しているが、例えば倒木と落ち葉では、その分解速度は大きく異なるはずである。このような、植物体の部位ごとの分解速度の違いを、リター中のリグニン濃度の関数として扱うことができないか?CASAやCenturyモデルでの扱いが参考になるのでは。もっとも、Soil Organic Matterに比べて、リターの分解速度は相当に高いため、リターの分解速度を改善しても、土壌における炭素プールには大きな影響は出ないかも。 →山火事頻度(リター量と土壌第一層の含水率の関数)には影響するだろう。なのでアフリカ大陸の計算では、リタープールとFuel loadは分けてしまっている。 ■■■■■■■■■■■■■ 光合成 ■■■■■■■■■■■■■ ●光合成速度に対する窒素制限を仮定する。真面目に窒素循環を入れようとすると面倒だし、全球で妥当な出力が得られるほど窒素循環モデルが成熟しているとも思えないので、McNaughton (1989)のパラメタリゼーションを参考にしてはどうか?ここでは、リターの分解速度を、その生態系の窒素availabilityの指標として扱っている。 なお、先に述べたSTeDYモデルでは、導入済みとのこと。 ●PFT毎の最適光合成温度に関して、もっと信頼の置ける情報はないか?カラマツ論文において行った研究では、この最適光合成温度の値の違いが、気候変動に対する植生の反応に大きな違いをもたらした。 ●光合成計算にファーカー式を用いるSEIBのバージョンは実は存在する。でも、あまりに計算時間がかかりすぎるので、本格導入に踏み切れない。計算時間を減らすための工夫が必要。 ■■■■■■■■■■■■■ 上記以外の植物生理プロセス ■■■■■■■■■■■■■ ●本モデルでは、樹幹レイヤーを下からパージすることで、樹幹の深さを調整しているが、この時にリターを落とすべき。また現状では、枝落ちも無視しており、これらはリターフラックスを過小に出力することに繋がるだろう。 ●光合成時のLight Use Efficiency (lue) は、パラメーターLUE0を元に、光とCO2濃度の関数として算出している。これはSimCYCLEの構造に習ったものであるが、北大の原登志彦氏によると、木本では定数で扱ってOKとのこと。 ●幹の形状がテーパーせずに、林冠の上端に達している点を改良すべき(甲山氏からの指摘)。 ※熱帯性広葉常緑樹(TrBE)、及び亜寒帯性針葉落葉樹(BoNS)では対応済み。これらにおいては、幹バイオマスの計算において、この要素による減価を考慮している。いずれ全てのPFTにおいても対応していきたい。 ●多くの広葉樹では、葉の傾きを調整することで、光量や水環境に応じて樹冠内の光減衰指数EKを戦略的に変化させている。他方、針葉樹の場合には、そのようなことはできないだろう。こうした違いは、とりあえず無視してしまっている。 ●木本の個体サイズに応じて、根バイオマスの垂直分布を変えてやり、これに応じて各個体の水利用条件を変えるようにすれば、例えば小さな木本ほど乾燥に弱いなどの効果が取り込めるのでは? ●食害のパラメタリゼーション→McNaughton et al.(1989)が参考になるのでは? ●パイプモデル則諸問題:(1)SEIB-DGVMで与えているALM1の値は高すぎるのでは(Crawley著「Plant Ecology」、ページ43の図と比べると)?(2)実際にはALM1は定数ではなくて、生育地の水条件に応じて変化するはずである。(3)辺材のターンオーバー率を、何の根拠もなく一律0.05%/年と仮定している。もう少しマトモな根拠を得るとか、またはsapwood/heartwood比を固定するとか、前年度の最大展葉量に合わせることを考えるべきではないか? ※TrBEとBoNS、アフリカ大陸の木本種からは、既にパイプモデルは外している。順次、全てのPFTから外してしまう。 ●木本密度のデータは国産有用樹種のテーブルから持ってきているが、できればグローバルなデータが欲しい。 ※TrBEとBoNSでは対応済み ●バイオーム毎の樹冠最大直径に、きちんとした値を入れる ※TrBEとBoNSでは対応済み ●樹冠表面の最大葉密度(LAmax)に、きちんとした値を入れる。 ※TrBEとBoNSでは対応済み ●土壌含水率の違いに応じて、地上部と地下部へのアロケーション比が反応するようにしてはどうか?(OCHIDEEやaDGVMの扱いが参考になる?) ●Bark厚は考えなくて大丈夫か? DBHには芯材部と樹皮部(Bark)の両方が含まれているが、木本バイオマスの算出などにおいては、この樹皮部は無視している。一般に樹皮部の密度は芯材部よりもだいぶ低いので、森林インベントリーの実測値でモデルを調整した場合、これは炭素フラックスを過大に評価する要因として働くだろう。 ●草本層への入射光量を決めるpar_grass_relの算出時に、鉛直方向から太陽光が差し込む設定で計算している。これにより、木本が存在する環境下での草本の生産量が過大に推定されてしまっている? ●草本の呼吸量が少なすぎる可能性がある。NPP/GPPバランスのデータを探して調整すること。 ●TeNE, TeBE. BoNEの葉の回転率低すぎではないか ●LAmaxの代わりにLADmaxにするべき?LADmaxの具体的な値についてはシリーズ現代の生態学「森林生態学」P228にある ■■■■■■■■■■■■■ 物理プロセス ■■■■■■■■■■■■■ ●NOAH-LSM結合版SEIBでは、Dailyデータで与えられた降水量を、昼12時00〜30分、夜12時00〜30分の2回に分けて降らせている。ここをKumagai et al. (2004)Journal of Hydrology287を参考にしながら改善出来ないか検討する。これは、Rico Fischer et al.(2014) Environmental Modelling & Software 52でも使用されている。 ●植生アルベドをLAIの関数にする(SiBモデルでの扱い方を参考にする→Sellers & Mintz 1986) 現在は、植生アルベドは、植生タイプごとに規定値が与えられる。したがって、落葉樹林のような季節的にアルベドが変化する様子をシミュレートできていない。より放射収支を現実的に出力させるためには、アルベドは植生タイプだけではなくて、LAIの関数とするべきである。 また、森林バイオームと森林以外バイオームとの間に存在する、雪に覆われた場合のアルベドの違いをモデルに組み込む。(参考:Bonan 2008, fig 1A) ●山火事 現状では、その頻度や影響を、きちんと調整していない。 ●温暖化実験時に、氷床に草本が定着することを防ぐため、氷床の圃場容水量などを0にしておく。氷床の地理分布データが見つかり次第、対処。 ●Betts et al. (1997)のLAI依存陸面パラメタライズを、採用する。 ■■■SEIB-DGVMの既知の技術的不具合■■■ ●信州大学の倉澤さんより指摘されたバグ。複数の木本PFTが定着する場合、それらの木本PFTに同じパラメーターを与えていても、PFT番号の順番が若いものが優占しやすいケースがあるとのこと。コードの定着に関わる部分(Subroutine establishment within population_regu.f90)を見直してみたが、原因が分からなかった。 ■■■SEIB-VIEWERの既知 の技術的課題■■■ ●PFT_noを読み込んで配列変数の桁数をredimするという手順が、環境によっては動かないバグあり ●シミュレーションで出現したPFTのみに凡例の線を表示するようにしたが、計算機によっては、その鉛直位置がずれてしまう場合があった。 ●時系列グラフ起点位置を変える ●エネルギーの循環をイラストで表現する方法を考える ●土壌温度の鉛直分布を表示 ●鉛直方向の樹冠植被率分布を表示させる(PFT別に表示できると便利であろう) ●analysis1.f90で分析している内容をSEIB-Viewerで実施させる