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野外調査日記

  9/1〜9/7の記録  

● 9月1日 (一日雨)

朝7:30から作業を終えた午後4:00頃まで、かなりまとまった量の雨が降り続けました。全身をゴアテックスで覆っているのですが、不快なことには変わりありません。また、除雄(花から雄しべを除くこと)などの精密な作業も行っているので、雨の日は手元が暗くなって作業効率も著しく低下してしまいます。

 ツリフネソウの花の雄しべは、互いに合着して雄蕊群を形成し、これがメシベを覆うような構造をとっています。これを花から人工的に取り去るには、先端をマイナスドライバーのように平たく研いだ針を雄蕊群とメシベの間に滑り込ませ、雄蕊群の根本の数カ所を切断します。

  ツリフネソウ属は植物の繁殖生態学ではかなり一般的な材料であり、そして除雄というのも極めて一般的な技術なのですが、何故かツリフネソウの花で除雄実験を行ったという過去の仕事は見つかりません。今書いている僕の論文が、たぶん最初の例だと思います。あるいは、外人の太くてごつい指では、ユリやチューリップの花の除雄くらいしかできないのかもしれません(偏見?)。この除雄処理は去年の実験から始めたのですが、去年手伝いに来てくれた皆様は、皆15分くらいの練習で技術を習得していました。あ、でもY君だけは、除雄するたびにメシベに傷をつけてしまって、なかなか上手くできませんでした。彼には「貴様ぁー、それでも日本人かぁっ!?」などと言って、ずいぶんいじめた精神注入したのですが、結局最後まで技術の上達は見られませんでした。細かい作業には、やはり多少の向き不向きはあるようです。
 

● 9月2日 (曇りのち晴れ)

 珍しく、一日雨が降りませんでした。雨上がりとあって、実験集団の周りの林床には、沢山のキノコが出てきています。見るからに美味しそうな物も多いです。食べて死ぬような毒のあるキノコは日本には4種類くらいしかなく、僕はそのいずれも見分けることができるのですが、キノコに詳しいY君の話によると、死ななくても「食べると4日4晩、全身に焼けた火箸を押しつけられるような激痛が続く」キノコもあるらしく(ウヘェ)、やはり怖いので食べるには至っていません。食用キノコの図鑑を持ってくるべきでした。

〜 To eat or not to eat. That's the question. 〜


 

● 9月3日 (曇り、時々小雨)

 今日も、午前中は実験集団で作業、午後はハガクレ・エンシュウの各自然集団で作業、という一日でした。だんだんルーチンワークになってきました。

 昨日から自然集団での送粉昆虫訪問頻度のデータを取り始めました。その具体的な手順としては、1)咲いている花の1つ1つに番号を付ける、2)番号を付けた花にやってくる送粉昆虫の種類と数を記録する、3)これを毎日12:30から13:30まで繰り返す、というバカみたいな作業です。端からもバカみたいに見えると想像されるので、この作業はなるべく人目を避けて行っています。でも、今年度は「季節の進行に伴う送粉昆虫数の変化が植物の開花戦略に与える影響」を調べているので、これを来月の初旬まで続けなくてはなりません。

〜 車の陰に隠れてデータ取り(ハガクレ自然集団にて) 〜


 

● 9月4日 (曇り、時々晴れ、時々小雨)

 今日も、午前中は実験集団で作業、午後はハガクレ・エンシュウの各自然集団で作業、というルーチンな一日でした。唯一異なるのは、昨日はハガクレ自生地で送粉昆虫訪問頻度のデータを取り、今日はエンシュウ自生地で取ったという点です。なんで毎日両方の自然集団でデータを取らないのかというと、送粉者の訪問頻度は時間帯によって異なるので、二つの自生地の間での比較をしようとすると、どちらも同じ時間帯にデータを取る必要があるからです。本当はそれぞれの自生地で同時に観察できるのが一番良いのですが、一人でデータを取っているので仕方ないですね。

 夜机に座って論文やホームページを書いていると、羽蟻が次から次と机の電気スタンドにやって来ては飛び回るので、うっとうしいことこの上ないです。今晩は特に多いようで、潰しても潰しても潰しても潰しても潰しても、次から次にやって来るのです。窓を閉め切っても、換気扇の隙間から入ってくるので、あまり効果ないです。

 まあでも、たまに家の中で見かける巨大ゲジゲジ(下の写真参照)に比べれば、蟻なんて可愛いものですね。この近辺では不幸なことに、このゲジゲジが多く生息し、家の中にも入ってくるのです。特に台所の流しなど、水気のある場所が好みのようです。最近はだいぶ慣れてきましたが、初めてこいつを見たときはかなりショックでした。夜布団に入り横になっているときでも、僅かな物音がするたびに「すわ、巨大ゲジゲジかぁ!?」と電灯をつけて確認したりしてたので、寝不足にすらなったものです。

〜 巨大ゲジゲジ(九大山の家にて今年6月に撮影) 〜


 

● 9月5日 (晴れ、時々曇り)

 いつもよりも早起きして、実験集団・自然集団での作業を早く終え、福岡まで戻りました。今晩からK子さんがお手伝いに来てくれるのです。K子さんとの待ち合わせの時間まで、研究室で刃物を使った作業をしていたら、右手の小指をかなり深く切ってしまいました。すぐに止血して病院まで行ったのですが、不幸中の幸いで、指の脇の部分が切れただけで神経にも筋肉にも異常はありませんでした。でも、けがをした指を添え木と包帯とで完全に固定されてしまったので、治るまで不自由な思いをすることになりそうです。傷口の消毒と包帯の交換をしばらく続ける必要があるとのことで、お医者さんに紹介状を書いてもらいました。指がそんな状態でしたので、現在ペーパードライバーのK子さんの運転で大分まで戻りました。恐怖で血圧が上がりっぱなしだったので、かえって怪我には悪かったかもしれません。

〜 K子さん登場 〜


 

● 9月6日 (一日雨)

 一日雨でした。指の包帯へビニール袋を被せビニールテーブで固定して、作業を行いました。今日から人手が増えるので、サンプル数を増やそうと予定していたのですが、雨のうえ右手も不自由だったので欲張らず、データに穴を開けない程度の作業のみで終業。エンシュウ自然集団のある玖珠町で病院を探し、消毒と包帯の交換をしてもらいました。なんだか、右手小指を立てた状態が癖になってしまいそうです。
 

● 9月7日 (一日曇り)

 新しい蕾が次々に形成され始め、急に仕事が忙しくなってきました。K子さんには良い時期に来てもらいました。野外科学では、どうしても仕事が特定の時期に偏ってしまうので、お手伝いの確保は重要です。それに、野外・室内を問わず実験というのは、実はそれに従事している時間殆ど頭を使うことがないので、話し相手が居ると精神的にも非常に楽なのです。彼女には3週間居てもらう予定なので、これからしっぽりと仲良くなっていきたいと思います。

 ‥と思っていたら、K子さんが体調を崩してしまいました。どうやら、夜型から朝型への生活の変化、温度と気圧の急激な低下に加えて、昨日行った雨の中の作業が災いしたようです。

〜 九重の空はもう秋です (やまなみハイウェイ、長者原付近) 〜


 





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