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野外調査日記

  10/6〜10/12の記録  

● 10月6日 (晴れ)

 ハガクレ・エンシュウ自然集団の作業がほぼ終了。残った作業は、4〜5日に1度くらいの頻度の種子数チェックだけです。これでもう、毎日3時間近くも山道を往復する必要がなくなりました。実験集団での作業も殆ど終わりかかっているので、明日は福岡に一度戻ろうと思います。

朝:昨晩のおかず、昼:トーストと牛乳、夜:カボチャと豚ロースのカレー味煮込み、キャベツとワカメの味噌汁
 

● 10月7日 (曇り、時々小雨)

 早起きして手早く仕事を片づけ、福岡に11日ぶりに戻りました。道中、オートバックスで車のオイルを久しぶりに交換。店の人に「汚れてたでしょ?」と聞くと、「ええ、相当なものでしたね」と答えられました。毎日、最大標高差が600mもある範囲を100km近く走っていればそうなるでしょう。

 買い物や給油などをして、昼すぎに自宅に着きました。メールをチェックすると、講座の事務の方と指導教官から連絡が入っていました。American Journal of Botany誌より校正原稿が届いていて、同封されていた手紙には「48時間以内に、校正刷りのチェックを完了して送り返しなさい」と書いてあるとのこと。Final acceptが出てから校正原稿が刷り上がるまでに半年近くも待たせておきながら、なかなかいい態度です。まあでも、野外作業がほぼ終わったこの時期に届いてくれて良かったです。台風通過直後とかに「48時間以内に‥」なんて手紙もらったら、発狂しちゃいそうですから。今日は自宅でゆっくりするつもりだったのですが、汚れた作業着のまま、急ぎ大学へ向かい原稿を受け取りました。

朝:ご飯・昨晩のおかず・昨晩の味噌汁、昼:スーパーで買った天丼、夜:スーパーで買った鯖寿司・インスタント味噌汁

〜 原稿のチェック 〜


 

● 10月8日 (曇り)

 しかしフロッピーで原稿を送っているのに、何故「mixed-mating」が校正刷りでは「mixed-matching」に変わっちゃったりするんでしょうね。まさかプリント出力を見ながら、copy editorが入力し直しているとか?当初はtableの数値などを照合するくらいで簡単に終わらせようと思っていたのですが、このようなミスを見つけたので、個々の単語を逐一チェックすることになりました。おかげで、昨晩は徹夜に近かったです。

 何カ所かの修正を指示した原稿をchief editorにEMSで送り返し、別刷り依頼書を出版社にFAXで送り、これにてこの論文に関する仕事はすべて完了。いやはや、長い道のりでした(論文って、書くのは簡単だけど、載せるのは大変なんですね)。何も問題が生じなければ、1999年12月号に掲載されるはずです。この千年記を締めくくるのにふさわしい、素晴らしい論文だと自負しています。

 1週間食べ続けると口内炎ができる九大生協の定食を久々に味わい、昼過ぎに大分に戻りました。それにしても、睡眠不足時の高速道路走行は、極力避けるべきですね。途中何度か意識を失いそうになりました。ここ数年のところ同業者がよく事故で亡くなっていることだし、僕もそろそろ安全管理にも気を使わなくてはなりません。道中、実験集団に立ち寄り作業を簡単に終え、夕方ごろ前線基地に到着しました。今晩は、よく寝られそうです。

朝:スーパーで買ったおにぎり、昼:九大生協の昼定食、夜:大分名物だんご汁
 

● 10月9日 (快晴)

 3連休の初日、しかも秋の行楽シーズンで快晴とあって、この界隈は沢山の行楽客で賑わっていました。世間が休みなので、今日は私ものんびりと過ごすことに決めました。というわけで、昼に3時間ほど実験集団で作業を行った他は、前線基地にて、布団を干したり、溜まった日記を書いたり、雑誌を読んだり、コーヒーを飲んだりと、幸せな時間を過ごしました。

 夕方、露天風呂にて民宿のお客さんと少々お話をしました。この民宿は、前線基地の大家さんが経営しているのですが、1泊2食付きで6500円、しかも夕食はなかなか豪華だとのこと。何だおやじ、意外と正直な商売をしてたんだ。

朝:トーストと牛乳、昼:ラーメン、夜:イカの中華風炒め(どうも、これに当たったらしく、現在トイレと往復しながらこの日記を書いています)
 

● 10月10日 (快晴)

 今日も、野外での作業は2時間程度で完了。暇なので、少々気が早い気もしたのですが、論文の別刷りを送付する研究者のリストを作成しました。この分野の重鎮と中堅を中心にした約20人くらいのリストになりました。私の論文は、植物学者ならば高い確率でチェックする雑誌に掲載されるのですが、直接送りつけた方が確実に彼らの目に留まるでしょう。ある研究の価値とは、それがその後の研究の流れに与えたインパクトの大きさによって決まるはずなので、このような営業活動も立派な仕事なのです。また最近では、論文の被引用回数がネットワーク利用で簡単に調べられるので、これからの業績の評価は、総論文数だけでなく総引用数も重視されてくるはずです。今後、ますます営業活動の重要性が高まってくるでしょう。

 論文だけ送りつけるというのも素っ気ないし、読んでもらえないかもしれないので、簡単な挨拶状を書いてみました。以下が和訳です。

ハロー、ドクター。私の名前はH. Sato、新進気鋭の植物学者です。

さて今日は、我々の素晴らしい論文をお届けしました。これは例えるならば、幾つもの実験と論理を巧妙に紡ぐことで重層なテーマを展開する交響曲といったところかな。いろいろ参考になるはずなので、繰り返し精読するといいヨ。もっとも君たちのレベルで書けるのは、小品程度の論文が関の山だろうけどね。しかし落ち込むことはない、小品には小品の良さがあるのだから。たとえそれが殆ど引用されることがなかったにしてもネ。HAHAHAHAHAHA。

あなたのベストフレンド、H. Satoより

[補注, 26 Oct 1999]
あの、冗談ですからね。「本当にこう書いたんですか!?」という問い合わせが意外に多かったので、念のため。

朝:納豆チャーハン、昼:昨晩のおかずをコンビーフと一緒に炒め直してトーストで挟んだ物、夜:昼の残りを溶き卵と混ぜて作ったオムレツ・モヤシの味噌汁
 

● 10月11日 (快晴)

 昼、お湯を涌かしていたら、プロパンガスが切れてしまいました。ガスサービス会社と契約している場合は、会社が定期的にガスの残量を調べに来て、無くなりそうな場合は交換してくれるのですが、私が借りている家はずっと空き家で、その様な契約になっていないのです。今日は休日なので、明日、玖珠町(車で片道約45分)のガス会社までボンベを持って行かなくてはなりません。あと一週間、もってくれれば良かったのですが。

朝:ご飯・納豆・昨晩の味噌汁、昼:トースト・レトルトのミートボール、夜(ガスが切れたのでサバイバルメニュー):サバ味噌煮缶を利用した混ぜご飯
 

● 10月12日 (晴れ、時々曇り)

 玖珠町までボンベを持っていきました。5sボンベを満タンにして、2000円。ついでに、近くのエンシュウ自然集団に立ち寄り、種子数のチェックを行いました。すべてのチェックが行えるまでに、まだあと一週間程度はかかりそうですね。そんなわけなので、当面はのんびり温泉にでも浸かりながら、種子の形成を待つ生活を続けようと思っています。

 「フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌」(ジョナサン・ワイナー著、早川書房発行、2200円、ISBN4-15-207948-7)を読みました。実はこの本は前にも一度読んだことがあるのですが、それにも関わらず面白く、また得る物も大きかったです。進化生物学や生態学を志している方には、是非一読をお勧めいたします。内容を理解するために、生物学の知識はほとんど要求されず、高校生(但し、進学校に限る)位の頭脳があれば十分です。また訳本であるにも関わらず、文がちゃんと日本語になっていて読みやすいのも好感が持てます。「訳者の頭も相当いいな」と思っていたら、樋口宏芳・黒沢令子訳、前者は有名な鳥の研究者で東大教授でした。

朝:ご飯・昨晩のサバ缶の残り、昼:サンマの塩焼き弁当、夜:イワシの梅干し煮・その煮汁で煮た青菜・豆腐とワカメの味噌汁

〜 民宿の温泉 〜


 





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