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人間合格

劇団      :こまつ座
作       :井上ひさし
演出      :鵜山仁
出演      :大高洋夫、梨本謙次郎、すまけい、梅沢昌代、旗島伸子、松田洋二
上演会場・日時 :紀伊國屋サザンシアター (2003年3月15日)

のちに太宰治として世に知られる青年津島修治が、学生下宿で得た生涯の友と、太平洋戦争を挟んだ十六年に渡って交わす友情の物語。 イデオロギーに夢を感じたり、あるいは振り回されたりする若者達の姿が、可笑しくも切なく描かれた佳作。 役者、演出共に完成度は高く、6人の出演者が何役も兼ねていながら、まったく無理が感じられなかった。 もっとも、あまり冒険的な技法とか表現は使わない劇団のようで、個人的には若干物足りなさも感じたのは、贅沢だろうか? 例えるならば、安心して仕事は任せられるけれど、ギョッと目を剥く様な何かは期待出来ないプロの職人さんといった感じ。

ただ、それよりも何よりも、芝居の結末があまりにも暗すぎる。 今後も再演される可能性の高い脚本なので、ネタバレは自制するけれど、もう一捻りして未来に希望を繋げるような終わり方にして欲しかった。 まあ、世の中とか人生とかって、或いはそんなものなのかも知れないけれど。

余談だけど、この芝居を見た翌週、この「人間合格」の公演ポスターを、筑波国際ホール近くの劇場で偶然見つけた。 筑波というのは、文化的に貧しい地域というイメージがあったのだけど、最近では、それなりのレベルの芝居もやってきているようだ。 ただ、こんな暗い芝居を、そうでなくとも自殺者の多い場所で上演したら、絶望して死んでしまう奴が4,5人位出るのではないか?

独立行政法人化のあおりで失職寸前の旧国立研究所研究員、なかなか次の職が見つからないポスドク。 そして、自信作の投稿論文は、ボロクソなreferee commentsと共に却下されて戻ってきた。 「あぁ、元気を出さなければ」 → 「そうだ! 久しぶりに芝居でも見るか!」 → 「鬱だ死のう」。 もし、筑波近辺のホームセンターで、一時的に七輪の売り上げが急増していたならば、それはこの芝居の経済効果であった可能性が高いだろう。

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