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最終更新日 2011年11月24日

地球環境変動予測のための動的全球植生モデルの構築

これまでの研究成果

地球上には様々な植生が存在するが、どの地域にどのような植生が生じるのかは、主に気候環境が決定する。その一方で、植物生態系の分布や構造は、陸面の太陽光反射率・葉面からの蒸散量・生物量や土壌有機物としての固定炭素量、等々を変化させることで、気候環境と密接に相互作用している。そして現在の気候環境は、このような相互作用の結果として存在すると考えられている。特に、温暖化の主要因とされる大気中CO2濃度の増加の速度は、植生が保持する炭素量の変化に大きく影響されるので、植生−気候間の相互作用を的確に予測することは、地球温暖化などといった数百年の時間スケールで生じる気候変化の予測において、欠かせない。

そこで我々は、現在地球で進行している急速な気候変化のもとにおける、植生帯の分布と機能の変化を予測するためのモデルSEIBを開発してきた。これは、動的全球植生モデル(DGVM)と呼ばれるシミュレーションモデルの一つであり、気象・土壌データを入力に用いて、植生の短期的応答(光合成や呼吸量など)と長期的応答(植生帯や生物量の分布など)の両者を出力する(図1)。長期の気候変動を扱うためのシミュレーションモデルには、このようなDGVMを含めることが一般的になりつつあり、これまで世界で10を越えるDGVMが開発されているが、我が国ではこのSEIBが唯一である。


図1:動的全球植生モデルの入出力、及び構成

ところで、気候が変化しても、その新しい気候に適応した植物生態系が生じるまでに大きな時間遅れが生じると考えられている。なぜならば、植生が変化するまでには、新しい気候環境に適応した植物が侵入し、それが既存の植生と競争を行いながら、徐々に優占度を高めていくといった、一連のプロセスを経なければならないからである。SEIBでは、そのようなプロセスを的確に扱うために、陸面の各格子を代表する仮想植生に、個体として扱った木本を定着させ、それぞれが置かれた条件の下で、光と空間を巡る局所的な競争を行わせている(図2)。このような植生の扱いは、他のDGVMにおいても採用されつつあるが、SEIBは当初から局所的な個体間競争を扱ったパイオニア的なモデルである。SEIBは、現在までに我が国の地球システム統合モデルに結合され、気候-植生間の相互作用が未来の地球環境に何をもたらすのか、IPCC第5次報告書に向け地球シミュレーターにおいて計算実験に利用されている。


図2:SEIBによって再現された熱帯多雨林の発達。半島マレーシアの気候と位置データを与えて、皆伐後の植生回復をシミュレートした。先駆種(黄)から極相種(赤・青・緑)への遷移が再現されている

今後の方針

現在、SEIBでは、全ての植物タイプの種子が全格子へ十分に供給されていることを暗に仮定している。しかし、今後生じると予想されている急激な気候変動の下では、種子の分散能力の制限が植生帯の移動を遅らせることも当然起こるはずである。SEIBによる予備的なシミュレーションにで、この種子の分散能力の制限の程度は、潜在的に、今世紀中の陸面バイオマスの変化の程度に極めて大きな差を生じさせる事が示されている。また、現在のシミュレーションでは、100km×100kmの粗いグリッドを30m×30m程度の小区画で代表させており、グリッド内の地理的多様性を考慮に入れていない。実際の植生分布は斜面方位や標高などに応じて異なっていることが一般的であるが、そのような状況は無視されている。そこで今後は、種子分散や地形の多様性といったサブグリッドスケールの事象を、いかにDGVMで扱うのか、重点的に検討していく。

最新情報

この研究に関する最新情報は、全てSEIB-DGVMホームページにて提供いたします。




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