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第12回 統合的陸域圏研究連絡会


日時: 2012年5月26日(日本気象学会2012年度春季大会)

場所: つくば国際会議場

講演者および講演題目:

    1.本多 嘉明(千葉大学)
  「GCOM-C1/SGLIによる陸域モニタリングへの貢献」
    2.梶原 康司(千葉大学)
  「二方向性反射率による地上バイオマス推定とGCOM-C1について」

    3.藤井 秀幸(JAXA)
  「マイクロ波放射計による衛星陸面観測」

講演要旨:


1.「GCOM-C1/SGLIによる陸域モニタリングへの貢献」 本多嘉明 (千葉大学)


  GCOM-Cシリーズは気候変動の正確な予測に必要となる放射収支や炭素循環の変動メカニズム解明への貢献を目指している。全地球規模での長 期 間継続的な観測・データ収集を行うとともに、気候数値モデル等を有する研究機関と連携し、数値モデルによる様々な環境変化予測の高精度化に貢献す ることを最終的な目的としている。また、沿岸漁業や農業・食糧安全保障といった実社会へのより直接貢献をも視野に入れている事もこれまでに無 い衛 星プロジェクトと言える。 
 初号 機、GCOM-C1は、科学的な視点として1)大気エアロゾルによる日傘効果および2)陸域・海域生態系による二酸化炭素吸収能力の不確実 な要素を低減させることを目的としている。温室効果ガス等の地球を加熱する方向に働く要素の多くは、現状でも効果の大きさが精度よく見積もら れて いるが、エアロゾルによる直接的・間接的な日傘効果はその大きさの見積もりには依然大きな不確定性が含まれている。現在、陸・海域は生態系の活動 等を通して二酸化炭素(CO2)を吸収し、大気中に蓄積するCO2の濃度上昇速度を抑える働きをしている。しかし、現在のCO2吸収量の見積 りに は大きな不確かさが含まれている。将来、気候変動した環境下で、陸・海域がどれくらいCO2を吸収する能力を維持できるかについては、さらに、理 解されていない。
GCOM-Cは、陸域と海域の植生や温度の全球分布と変動を長期観測し、生態系による二酸化炭素吸収・放出プロセスを解明 し、 気候数値モデルの陸域・海域生態系過程の改良に貢献できると考える。 
 これら を実現する為に多波長光学放射計(SGLI:詳細はhttp://suzaku.eorc.jaxa.jp/GCOM_C/w_sgli/c_sgli_prod_01_j.html) は、ADEOS-IIに搭載されたグローバルイメージャ(GLI)の後継センサであり、近紫外から熱赤外域(380nm〜12µm)においてマル チバンド観測を行う光学放射計である。チャンネル数をADEOS-IIに搭載されたGLIが備えていた36chから19chに減らす一方、導 出で きる標準プロダクトを22個から29個に増加させて、エアロゾル・雲や陸域植生の観測を強化しています。表1のように陸域モニタリングの供花の 為、表1に示すような陸圏のプロダクトを生成する予定である。

figure1

表1 陸圏プロダクト


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2.「二方向性反射率による地上バイオマス推定とGCOM-C1について」梶原 康司(千葉大 学)


 人工衛星データによる植生の地上バイオマス推定は陸域リモートセンシングの歴史の中でも比較的早い 時期から正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index : NDVI)などの植生指標を用いて試みられてきた。植生指標が植被率と相関が 高いことを利用した推定手法である。確かに被覆率とバイオマスとの関係が比較的単純な草地などでは、これでも十分な精度で推定が可能だが、森 林では200t/ha程度で植生指標が飽和するため、それ以上のバイオマスを有する森林では植生指標を 用いたバイオマス推定は困難である。光学センサによる森林バイオマス推定手法は、現在では二方向性反射特性を利用した手法が主流となってい る。異なる観測 ジオメトリから得られる二方向性反射に係わるパラメータは森林の3次元構造を反映したものであり、それがバイオマスと深い関係にあることを用 いる手法であ る。
 しかしながら、全球の地上バイオマス推定をターゲットとして考えると、高頻度全球観測をし、かつ複 数方向から同一の地点を観測する目的で運用されている光学衛星センサはなく、その意味で今後JAXAが打ち上げを予定しているGCOM-C1 のSGLIは、 直下およびalong track方向の斜め観測が可能なセンサであり、かつ全球高頻度観測を実現するセンサとして非常に期待されている(Terra搭 載のMISRは低緯度で9日間回帰であり、もっとも高頻度観測が必要な熱帯域において観測頻度が低い)。本連絡会ではSGLIで予定されてい る二方向反射率データを用いた地上バイオマス推定についての紹介を行った。
 発表者のチームはこれまで無人ヘリコプターを用いた数多くの樹冠反射スペクトルの多方向測定と地上 計測によるバイオマスとの関係から、図1に示すようなバイオマス推定の経験式を得た。 
 直下と斜め観測による赤および近赤外反射の遷移を決定づける3つのパラメータ(図中のP1, P2, P3)を衛星観測データから取得して地上バイオマスを求めるという手法である。この手法では典型的な森林タイプごとに異なる定数Cを あらかじめ求めておくこと、また直下および斜め観測といっても、それらは太陽天頂角を含めた観測ジオメトリを固定した場合の反射率を必要とす ることから、様々な森林タイプにおけるBRDFが既知でなければならない。そこで、実測で得たこれまでの知見から、樹高、樹冠深さ、平均樹幹 距離などの森林構造に係わるパラメータを用いてBRDFを推定するシミュレータBiRS (Bi-directional Reflectance Simulator) を開発し、これを用いて森林タイプが決まれば任意の観測ジオメトリにおける反射率をシミュレートできる環境を整えた。実際の衛星データから取得される直下 および斜め観測の赤・近赤外チャネルの反射率データのペアから、BiRSによって予め計算された様々な観測ジオメトリにおける反射率テーブル を探索することによって固定ジオメトリによける反射率を推定し、この推定反射率からP1, P2, P3の各パラメータを計算して地上バイオ マスの推定を行う。図2に、シミュレートされたBRFの例として、平均樹幹距離6.64m, 樹高15m, 樹冠深さ4.5mのカラマツ林に おけるシミュレーション画像(左)とシミュレートされたBRF(Bi-directional Reflectance Factor)(右)を示す。
 ここでは詳細を割愛するが、発表では BiRSにおけるシミュレーションをより現実の森林 に近づけるために作成した独自の樹冠モデル(図3)や、様々な樹冠形状パラメータ実測のためのレーザースキャナを用いた地上観測活動について も紹介を行った(図4)。

figure2
図1 地上バイオマス推定の概念図

figure4figure6[
図2 平均樹幹距離6.64m, 樹高15m, 樹冠深さ4.5mのカラマツ林におけるシミュレーション画像 (左)と太陽天頂角20, 40, 60度におけるシミュレートされた二方向反射係数(右)

figure8
図3 樹冠モデル

figure10
図4 レーザースキャナ搭載無人ヘリコプターによ る樹冠形状の観測データ(左)およ び同データから単木抽出(右・下)


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3.「 マイクロ波放射計による衛星陸面観測 」 藤井 秀幸(JAXA)

陸域地表面の水文量は、大気との相互作用を通して気候の季節変化 や年々変動に深く関与している。とりわけ、土壌水分などの陸面水文量は地表面の熱収支と密接に関連し、気候メモリーとしての役割も担うこ とから中・長期的な水循環変動においても重要となる。マイクロ波放射計による衛星観測は”水”に感度を有し、グローバルな陸面水文量の推 定に有効な手段である。本発表では、土壌水分プロダクトを中心にJAXAの衛星搭載マイクロ波放射計の観測概要とプロダクトの紹介を行っ た。
はじめに、JAXAのマイクロ波放射計について概要を説明した。 衛星AUQA(NASA, 2002年打上)に搭載された改良型高性能マイクロ波放射計AMSR-E(NASDA開発)と、その後継機で ある第一期水循環観測衛星GCOM-W1(しずく、2012年5月打上)に搭載された高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)は、6GHz帯〜89GHz 帯 の6周波数帯・2偏波のマイクロ波放射計で、1450kmの観測幅を有し、2日間で全球の98%以上を観測可能である。JAXA標準プロ ダクトとして、土壌水分と積雪の陸面水文量のほか、海面水温、海面風速、海氷密接度、降水、水蒸気、雲水の水に関連した物理量が提供され ている。
次に、土壌水分プロダクトについて、アルゴリズム概要と問題点に ついて説明をした。JAXAの土壌水分プロダクトは、小池らによって開発された輝度温度指標を用いたルックアップテーブル(LUT)形式 のアルゴリズム1) によって作成されている。このアルゴリズムでは、10GHz帯と36GHz帯の輝度温度から求まる偏波指標PIと周 波数指標ISWを用いてLUTを参照し、土壌水分と植生水分を同時に推定する。これは、植生に多くの水分が含まれるため、植生からのシグ ナルと土壌からのシグナルを分離するためである。さらに、本アルゴリズムの特徴として、フットプリント内の植生分布の不均一性を考慮する ためにMODISのNDVIデータから算出した植生被覆率によってLUTの補正を行っている。現在、本プロダクトは海外の大規模耕作地の モニタリングなどで利用されているが、下記のような既知の問題点も指摘されている。
1)      熱 帯林などの密な森林が広く分布する地域や強い降水域では、下層境界となる土壌からのシグナルが、その上の 植生や降水によって吸収されてしまうため、原理上推定できない。
2)      砂 漠など、体積含水率0.05g/cm3以下の極度に乾燥した条件下で過大推定の傾向がある。
3)      JAXA 標準プロダクトは準リアルタイムでプロダクトを算出するために、MODISの植生被覆率データは平 年値を用いている。そのため、旱魃など、植生の状態が大きく変化した場合に、土壌水分の推定値精度が低下する場合がある。
1)については品 質フラグを付加する予定であり、2)に関しても、新たに地温や粗度も推定パラメータとしてアルゴリズムを改良し、精度向上に取り組んでい る。3)については、JAXAの運用システム上の制約から、別途、研究プロダクトして実際のMODISデータをつかった土壌水分プロダク トを試験的に提供している。
最後に、データ入手方法について紹介した。JAXAのAMSR- E/AMSR2標 準プロダクトは、研究目的に限り無償で配布されており、GCOM-W1データ提供サービス(http://gcom-w1.jaxa.jp/)より取得で きる。また、MODISの実データを使った土壌水分の研究プロダクトもアルゴリズム開発グループ(  http://monsoon.t.u-tokyo.ac.jp/mland/ )から試験的に公開されており、データも利用可能である。
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