Last update: 22 March 2006

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質疑応答

以下は、2005年9月21日にJAMSTEC横浜研究所で行われた非公式外部評価委員会での質疑応答である。


評価委員A: 耕作地はどのようにして扱うのか?草原を仮定するとか?
佐藤: 耕作や森林伐採のような、人間の土地改変は、まだモデルに取り込んでいない。農業生態系は、後でSim−CYCLEの計算モジュールを結合する予定である。ちなみに、Sim−CYCLEでは、農業生態系を、独立した植生タイプとして扱っている。

評価委員F: 相対光量分布を計算する時間ステップは?
佐藤: 5日ごとに更新する。太陽は南中方向に一定し、一日中移動せず定位置で明るくなったり暗くなったりする。

評価委員F: 種子は全球にばらまかれていると考えるのか?
佐藤: 全てのPlant Functional Typesの種子が全球にばら撒かれていると仮定する。

評価委員B: このモデルは30×30mの仮想林分を計算単位としているが、そのような仮想林分を使って、いかに全球のシミュレーションを行うのか(スケールアップの方法)
佐藤: 全球を一片100km程度のグリッドに区切って、各クリッド内に仮想林分を1〜5個程度置き、各々計算した結果の平均値をグリッドの代表値にする。
評価委員B: 1〜5個程度では少なくないか?
佐藤: もし同一グリッド内の林分間で、炭素や水循環などの分散が大きすぎるようであれば、さらに数を増やすことは可能。その場合は、単純に利用可能な計算力との相談になる。また、現在は30×30m程度の林分を想定しているが、この広さは、例えば熱帯雨林などの大きな木本が存在する生態系では十分とはいえない。
評価委員C: 例えば熱帯林のみで、仮想林分の面積を広げるなど、計算力を節約しながら、シミュレーションの精度を上げるような工夫が必要かも知れない。仮想林分の数や面積を決定するための、なんらかのストラテジーを取らなければ全球まで持っていけない。
佐藤: そのあたりの定量的検討は、今後行っていかなければならない。
評価委員D: やはり、解像度の荒さが気になる。
佐藤: 現在行っている全球シミュレーションは、128 x 64という更に荒いメッシュを使っている。メッシュを細かくすると大きな計算力が要求されるので、まずはこの荒いメッシュにおいて植生被覆パターンなどを的確に再現できるようにしたい。そのあとで、より洗練されたスケールアップの方法を考えていく。もちろんを解像度を高めることも必要だが、それだけでは要求される計算力に際限がなくなってしまうので、このような地形タイプを分別したアプローチが適当であると考えている。

評価委員D: 計算と実測値とのデータフィッティングはどのように行うのか。
佐藤: 木のサイズ分布とサイズ毎の成長速度の両者について、実測値とモデル出力結果が一致するよう、死亡率・定着率を調整している。この方法によって、バイオマス現存量、バイオマスの増大速度、という炭素循環の基本部分が取り込める。同様に、木本のサイズ構造とサイズ毎の成長速度という、競争の前提条件と結果も取り込める事になる。

評価委員F: 種子分散は考えているか?
佐藤: 種子分散は仮定してない。現在の全球計算の解像度は、種子分散を扱うためには荒すぎる。また、いずれ全球計算で種子分散を扱うにしても、その前に解決するべき多くの問題がある。最初に考えられるのは、種毎の分散能力の違い。寒帯林だと、ポプラの種子は風に乗ってどこまでも飛ぶが、針葉樹の種子では一世代あたりの分散能力はせいぜい数10m程度。このような情報を、いかに収集して、いかに全球モデルで扱うのか、考えなくてはならない。
評価委員D: つまり現在のシミュレーションは、全球に全種子をばらまいた想定か。
佐藤: 全てのPFTの種子を全球に均一に蒔くというシミュレーションを50年行い、その後は、各地域のPFTバイオマス比に比例させて、それぞれのPFTの定着率を決めている。

評価委員D: 撹乱はどのように扱っているのか?例えば、斜面が崩れて、森林にギャップができるなどという過程も考えられるが。
佐藤: 今のところ森林火災以外の攪乱過程は入っていない。今後は台風による高木の選択的倒壊などを入れていきたい。

評価委員A: 共生プログラムは終了するが、今後の予定は?
佐藤: モデルは一応出来ているので、今後は共生プロジェクト2にて開発が進められている地球システムモデルとの結合を進めていきたい。これは基本的に加藤さんの仕事になるはずだが、農業生態系モジュールの導入など、私が担当しなければならない仕事もある。

評価委員A: 種子分散を入れるなど、新たな要素の導入は行わないのか?
佐藤: やりたいことは多々あるものの、今のところ手を動かしている人間が私1人なので、限界がある。協力してくれる研究者が必要なので、このモデルを幅広い研究者に使っていただき、様々な情報が上がってくる仕組みを作りたい。そのためモデルのWebPageを開き、そこでプログラムのコードを公開している、今後は、モデルを利用する際に必要となる様々なTipsをまとめたり、また入力用の気象データをダウンロードできる仕組みを作るなどして、ユーザーの利便性を上げていきたい。現在ユーザー2名を獲得しているが、学会等で宣伝を行い、より多くの人に利用してもらいたい。
評価委員B: 公開してフィードバックを求めるのは非常に良い考えである。
評価委員C: モデルのメンテナンスが1人では大変かもしれない。
評価委員A: 新しいプロジェクトとして、予算申請するとよい。
佐藤: 衛星データを用いた検証など、フロンティア内部でプロジェクトを組めるのが理想だが、それぞれの研究者が自分のテーマを持っているので難しいかもしれない。
評価委員A: 生態学会にて自由集会を再度行ってはどうか。
評価委員D: むしろ生態工学会など、工学系の人に協力者を求めた方が良いのではないか。
佐藤: このモデルで扱っているのは学問の境界領域なので、そのあたりも考えたい。
評価委員E: 沼口さんは、そのときは1人でマネジメントを行った。マネジメントクラスで1人欲しいところである。コミュニティモデルになると1部門できる。まず仲間を増やすことである。  

評価委員C: 低木も新たなPFTとして組み入れる必要がある。また、せっかく個体ベースモデルなのだから、光だけでなく水を巡って競争させたいところである。現在のモデルでは、木のサイズと利用可能な水資源とが独立になっているのが問題である。
佐藤: もっともであるが、まずは水の土壌浸透過程などの、一般的な生態学者の手に余る物理過程をきちんと作りたい。今のバージョンのモデルでは、土壌水の浸透パラメータに、アメリカの中央草原にてチューニングされた1種類を全球に適用している。物理過程を的確に再現できた上で、水を巡る木本間の競争などを取り入れていきたい。
評価委員B: 土壌の厚さは、実際には植生の発達と共に変わってくるのではないか?
佐藤: 実際にはそうである。また、 斜面の角度に応じて、最大の土壌厚が決まったりもする。長期間の植生シミュレーションを売りにするのであれば、いずれ土壌の発達も課題にする必要がでてくるだろう。

評価委員A: 重要なのは結果が分かりやすいこと。ある場所の植生、または植生分布が、映画のように分かりやすく示せれば良い。そのような結果を示すことは出来るか?
佐藤: 可能である。 現在作成している森林成長のアニメーションは、常に評判がよい。

評価委員G: 斜面の話だが、水循環プログラムにはシミュレーションで既にまとめている人がいる。30秒グリッドスケールだったと思う。比較的簡単に取り込めるのでは?
佐藤: 検討したい

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