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最終更新日 2005年12月01日
人間活動の直接的影響(土地利用変化・移入種・薬剤散布・公害・狩猟)は、これまでに多くの種を絶滅に追いやってきた。今後は、そのような直接的影響に、間接的影響(気候変動)が加わることにより、さらに多くの種が絶滅していくことが懸念されている。なぜならば、予測されている温暖化の進行速度は、植物群落の分布変化の速度よりも早く、新しい生息適地に分布を拡大する前に、温暖化に追いやられてしまう陸域生態系が生じる可能性が高いからである。
しかし、そのような生物多様性の低下が人間社会に及ぼす影響については、よく分かっていない。なぜならば、生物多様性と生態系機能との関係が、未だはっきりしていないからである。有名な研究例として、種多様性と共に、単位面積当たりの植物生産性が上昇するという報告がある。その機構として説明されているのは、環境要求性の異なる種が組み合わさることにより、資源が無駄なく利用されるというものである。しかし、これは高々数種のみで構成されている集団が、十種程度で構成されている集団より生産性が高くなることを示しているのみで、そのような知見から、例えば熱帯多雨林における膨大な種多様性の必要性を主張することはできない。他方、「生物多様性は生態系機能の安定性に寄与している」という仮説は、特定の条件下で一定の説得力を持つように思えるが、そのような機構が実際の野外集団において、どの程度強く働いているのかについては不明である。
また、我々人類は、様々な生物資源の恩恵を受けているものの、現在地球で生じている程度の生物多様性の低下が、直ちに人類に大きな不利性をもたらす事はないように思える。なぜならば、我々が依存する食料・材料の多くは栽培品種に由来しており、自然界における生物多様性の低下が、これらの生産性に直接的な影響を与える事はないからである。さらに、我々人類は、様々な気候環境下に生活圏を持ち、かつ雑食性であり、生存基盤を特定少数の種に強く依存していない点も、そのような問題を起こしにくくするだろう。事実、ハワイ諸島やオーストラリア大陸では多くの固有種が絶滅してきたが、人間社会には何ら大きな影響を与えなかった。したがって現時点においては、生物多様性の喪失が人間社会にとって大きな問題となると主張する明確な根拠を、我々は有していない。
それでもなお、我々生態学者は、生物多様性そのものに価値があると信じる。なぜなら、現在の生物多様性は、40億年における進化の歴史の産物であり、そのような機能面の損得のみから価値を論ずることの出来る問題には思えないからだ。
しかし現状では、「生物多様性の喪失は人間集団の重篤な危機に繋がる」なる誤解が、広く流布しているように見える。そして、我々生態学者の多くは、そのような誤解を放置し、あまつさえ煽ることによって、研究予算の獲得手段としてきた。この点については、大いに反省し、そして改善していかなければならないだろう。なぜならば、そのような予算の多くは公金であり、誤解に基づいた公金の獲得は、すなわち横領に他ならないからである。また、我々自身の問題としても、たとえ予算獲得などの点において短期的な利益があげられたとしても、長期的には生態学者の社会的信用を喪失することに繋がり、最悪の場合、ルイセンコ学派の崩壊と共にアカデミックの世界から追放された旧ソ連の生物学者と同じ運命をたどることになるだろう。
Considerable number of species has been become extinct due to direct effects of human activity (e.g., land use, immigrant species, crop-dusting). From near future, indirect effect of human activity (i.e., global warming) would accelerate this trend, because forecasted global warming is much faster than for adaptive changes of vegetation distribution.
However, effects of biodiversity degradation on human population are not clear, because relationships between biodiversity and ecosystem function is still obscure. One of the key study on this topic demonstrated that increment of species number in pasture accompanies ecosystem productivity. The explanation for this phenomenon is that aggregation of species, which have varieties of resource and environmental requirements, increase efficiency of resource utilization. However, this study only compares populations with 2-3 species with populations with around 10 species, and thus we cannot generalize this trend. For example, the importance of vast biodiversity in tropical rain forests cannot be explained by this context. On the other hand, the hypothesis that biodiversity contributes to ecosystem stability seems to be theoretically reasonable in some conditions, but this is still not clear for its generality under actual conditions in nature.
Although human population essentially depends on varieties of biological products, biodiversity degradation currently occurring on the earth does not seem to affect these relationships. Because, we obtain biological resources (food, fiber, and construction material) mostly from cultivated species. In addition to this, human populations distribute wide range of climatic environment, and do not largely depend on small number of species. Actually, although vast of endemic species became extinct in Hawaiian Islands as well as Australia, due to human activity, this did not give considerable effects on human population.
Nonetheless, we ecologist believe that biodiversity itself is precious one. Because, biodiversity is the outcome of 4-gillion years evolutionary history of the earth, and we should not judge the value only from such a functional perspective.
The problem is that a misunderstanding 'lost of biodiversity is critical on human population' seems to be popular even in the scientist's communities. However, most of the ecologists have neglected it, some of them even fomented it, and make use of it as a stall to obtain research budget. We have to clean up such a behavior, because most of the research budget is public money, and arrogate of it is apparently against conscience. Otherwise, we would lose our public confidence, and would face to the same difficulties that biologists in Soviet Union experienced when Lysenkoism collapsed.