最終更新日 2005年5月14日
メンバー
佐藤永 (地球フロンティア研究システム)
伊藤昭彦 (地球フロンティア研究システム)
甲山隆司 (地球フロンティア研究システム/北海道大学大学院地球環境科学研究科)背景
気候環境は植生の構造や機能を強く規定するが、植生の構造や機能もまた、蒸散、炭素循環、アルベドの変化などを通じて、気候環境にフィードバック的な影響を与える。このような過程を気候環境の変動予測に含めるためには、生物地理化学過程や植生動態を取り込んだ陸域生態系モデルが必要とされる。そこで我々は、陸上生態系の機能(炭素や水の循環など)や構造(植生の分布や構成など)における短期的・長期的変化を予測を可能とする全球動的植生モデル(Dynamic Global Vegetation Model, DGVM)を開発している。これは、異なる計算間隔を有する複数の素過程モジュールを結合したものであり、幾つかのモジュールを環境条件の関数とすることで、生態系の環境応答をシミュレートできるようにしたものである。
このモデルの基本的なデザインは、既存のDGVMに準ずるものであるが、さらに林分の空間構造を明示的に組み込み、木本を個体ベースで扱うという野心的な拡張を行った。これらの拡張によって、森林ギャップの再生過程や樹木個体間の競争過程が的確に表現され、植生動態に伴う炭素収支変化や、気候変動に伴った植生分布変動の速度などを、これまで構築されてきたどのDGVMよりも正確に予測できることが期待される。
現在このモデルによる試行計算を繰り返す事で、諸パラメーターの推定作業を行っており、平成16年度中までには全球グリッドでのシミュレーション結果を得る予定である。そしてモデルのパフォーマンスが十分に検証できた後には、人・自然・地球共生プロジェクト第2課題で開発中の地球統合モデルKISSME(Kyousei2 Integrated Synergic System Model for the Earth-simulator)へ結合される予定である。
上は仮想林分のスナップショット(30m×30mの温帯混合樹林)。木本は個体ベースで扱われ、それぞれ樹冠、幹、根の3器官から構成される。樹冠と幹は円柱で近似された形態を有すると仮定し、根は生物量のみで扱った。全球におけるシミュレーション実験に際しては、この仮想林分をT42グリッド(128×64)の各グリッドにおいて10ずつ独立にシミュレートさせる。したがって、地表の1/3が陸面と仮定した場合、約2万5千もの地点を独立に演算させる。完成時には世界でもっとも演算量の多い生態系モデルとなる予定であり、このようなモデルの設計は、地球シミュレーターにおける運用を前提として初めて可能となった。
最新情報
この研究に関する最新情報は、全てSEIB-DGVMホームページにて提供いたします。