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第5回統合的陸域圏研究連絡会


日時: 2008年10月14日(日)(日本気象学会2008年度秋季大会第1日)
     18:00〜20:00

場所: 仙台国際センター
     気象学会秋季大会C会場

講演者および講演題目:
1.高田久美子(地球環境フロンティア)
      「産業革命以前(1700〜1850年)の耕地化がアジアモンスーンに及ぼした影響」
    2.真野裕三(気象研)・橋本徹・奥山新(気象衛星センター)

      「気象衛星センターの陸域エーロゾルプロダクトについて」
3.梅澤 拓(東北大学)
      「大気メタンの同位体観測によるアラスカ域のメタン放出源の推定」
    4.山崎 剛(東北大学)

      「陸面過程モデルを用いた森林・凍土に関する研究」


講演要旨:


1.産業革命以前(1700〜1850年)の耕地化がア ジアモンスーンに及ぼした影響」 高田久美子(地球環境フロンティア)

 過去300年の地表被覆・土地利用変化を用いて、植生分布を 1700年と1850年に固定したAGCM実験を行い、1700 年〜1850年の耕地化による夏季アジアモ ンスーンへの影響を推定 した。2つの実験では海面水温と海氷分布を現 在の月平均気候値 に固定して与え、50年積分を行って後半40年間の気候値に つい て1700年実験と1850年実験の差を解析している。 1700年から1850年に耕地化した主な地域はイン ド亜大陸・中国東 部・ヨーロッパ西部であった。
 両実験の夏季(68)の結果を比較したところ、 イン ド亜大陸と中国南東部では粗度の減少により陸上での地上風速が増 大して水蒸気収束が減少し、降水量が減少することが示された。特にイ ンド 亜大陸での降水量減少は顕著であり、ヒマラヤの氷河コアから推定 された過去300500年のモンスーン降水量の長期変動の傾 向と 一致することが明らかになった。1700年〜1850年は耕 地化 以外の人間活動(温室効果気体やエアロゾルの増大) よる気候への影響が小さく、自然変動要因の顕著な長期変動も報告されていないことから、この期 間のモンスーン変動のトレンドは耕地化によるものだと考えられる。季節サイクルの変化に関する詳細な解析結果に つい ては、山島他(2008年秋季大会, C356)を参照された い。 耕地化した地域ごとに分けて実験した結果では、蒸発等の地表面熱 収支項は概ね各地域の線形的な重ね合わせで説明できることが示された。

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2.気象衛星センターの陸域エーロゾルプロダクトについ て 真野裕三(気象研)・橋本徹・奥山新(気象衛星セン ター)

気象衛星センターは20073月 からNOAA-18の可視チャネルを用いた陸域エーロゾルのリトリーバルを開始した。開始以来約1年間の陸域エーロゾルの光学的厚さを地上のAERONET観 測データで検証した。すべての地点で統計的に有意な相関は見られたが、ばらつきも大きかった。今後のアルゴリズムの改良のために、誤差が大きい例について 誤差の原因を考察した。

 

(1)         厚い黄砂に関しては、気象衛星センターの光学的厚さは過大評価またはLUT(Look-up Table)の範囲を越えて値付けができなかった。LUTの作成に用いた鉱物性エー ロゾルの複素屈折率を見直す必要がある。

(2)         厚い灰色の靄に関しては、気象衛星センターの光学的厚さは過小評価であった。LUTの作成においては鉱物性エアロゾルを仮定しているので、カーボンを含むような大気汚染であればこの結果 は十分考えられる。将来的には、黄砂のようなダストと靄を識別する手法の開発と、靄のためのLUTの 作成が必要になろう。

(3)         光学的厚さが中程度以下(<2) の例では、光学的厚さが大きすぎる例の多くで雲の影響が示唆された。気象衛星センターでは雲域除去を 行っているが、小規模雲群や雲の縁の近くでは雲の影響を除くことは困難である。MODISの高解像 度画像を参照して雲の影響が疑われる例を除くと、AERONETデータとの対応は大きく向上し、ほ とんどのAERONET地点で0.6以上の 相関係数を示した。しかしながら、いくつかの地点では系統的な過小評価が顕著であった。

(4)         上記の系統的過小評価が見られた地点のうち海岸付近にあるAERONET地 点では、気象衛星センターの近隣海上のエーロゾルの光学的厚さはAERONETデータと非常に相関 が良く過小評価も見られないことから、この過小評価はLUTの作成過程で使われる地表面反射率の誤 差に由来すると考えられる。地表面反射率の誤差のありうる原因の一つは、地表面反射率を推定する際の最低アルベードがエアロゾルフリーに対応しているとの 仮定の誤りである。実際、AERONET地点での光学的厚さの月間最小値は無視できない正の値を示 しており、そのような仮定が妥当でないことを示している。AERONETデータの最小値の情報を取 り入れることができれば、陸域エーロゾルの推定値は有意に向上するであろう。

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3.大気メタンの同位体観測によるアラスカ域のメタン放 出源の推定 梅澤 拓(東北大学)

 メタン(CH4)は大気化学上も重要な 働きを持つ温室効果気体である。発表では、これまでの大気中CH4の時間変動やCH4の放出源/消滅源について概説するとともに、CH4の炭素/水素同位 体比(δ13C/δD)を利用したCH4放出源の推定に焦点を当て、2006年夏にアラスカで行った航空機観測の結果を紹介した。観測では、アラスカの上 空計8地点の高度約500-5000mで大気採集を行い、大気試料の各種微量気体濃度とCH4の13CとDの測定を行った。下記のように、特徴的な CH4分布を示した観測地点について紹介した。
ユーコン川下流域の湿地上空では、地表面付近で顕著なCH4濃度の増加と δ13C/δDの減少が観測された。CH4濃度とδ13C/δDの関係を用いて放出源同位体比を推定すると、北半球高緯度域の湿地から放出されるCH4の 同位体比の報告例と良い一致を示し、この地域のCH4分布には地表面湿地からのCH4放出の影響が大きいことが示された。
 一方、森林火災上空では、CH4濃度とともにCO濃度の著しい増加も観測 された。湿地上空の場合と同様に、CH4濃度とδ13C/δDの関係を用いて放出源同位体比を推定したが、その値は過去のバイオマス燃焼CH4の報告値と 異なった。これは、観測地点の周辺湿地からのCH4放出も同時にCH4分布に寄与していたためと考えられる。そこで森林火災によるCH4/CO放出比を仮 定し、観測されたCO分布を用いて森林火災と周辺湿地の寄与を分離して、森林火災から放出されたCH4の同位体比を評価した。この結果、過去の報告例と一 致する値が得られ、今回の観測点では湿地と森林火災の両放出源からのCH4放出により観測されたCH4分布が決定されていることが示された。

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4.陸面過程モデルを用いた森林・凍土に関する研究 山崎 剛(東北大学)

森林の潜在的応答特性に関して,北方林での気孔パラメータの決定と陸面モデルへ適用について述べた.北東ユーラシア,極 東地域の森林サイトにおけるデータ解析から,群落レベルおよび個葉レベルについて,全樹種のデータをプールし潜在的共通パラメータセットを決定できること がわかっている.陸面過程モデル2LMに個葉に関する共通パラメータセット(PC: Pooled Common)を適用して,各サイトで得られたパラメータ (WS: Within-Site) と同等に水・熱フラックスの季節変化を再現できることがわかった.これは北東ユーラシアの広範囲の森林で,一つのパラメータセットで水・熱フラックスの推 定ができる可能性を示している.さらにEUROFLUX, AmeriFlux, AsiaFluxの多くのサイトでも水・熱フラックスの季節変化を再現できた.ただし,潜熱を過大評価するサイトが存在した.PCとWSのパラメータには 明確な差が存在するが,ヤクーツクでは最大気孔コンダクタンスと土壌水分の効果が相殺し,同様の結果となった.この研究はJST/CREST (代表: 太田岳史) の一部として実施した.
東シベリアヤクーツク付近のフラックス・土壌水分・温度の長期推定を行った.2004年以降,この地域では土壌水分・温度の顕著な上昇と夏期の凍土融解層 の深化が報告されている.そこで,1次元陸面過程モデルによって,1986年から2007年についてタイガ林の水・エネルギー収支の長期推定を行い,近年 の土壌状況の急激な変化の再現・考察を試みた.2005年以降,土壌水分の増加,温度上昇が計算された.しかし,観測のような急激な変化は再現できなかっ た.モデルによる予備的な検討により,秋の降水量 (積雪深) の増加が土壌の昇温に効いていると推察された.
 




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