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第7回統合的陸域圏研究連絡会


日時: 2009年11月25日(水)(日本気象学会2009年度秋季大会第1日)
     18:15〜20:15

場所: アクロス福岡
     会議室607

講演者および講演題目:

    1.村上 浩(宇宙航空研究開発研究機構)
      「GCOM-C1ミッションについて」
    2.本多嘉明(千葉大学)
      「GCOM-C1の目指すもの(陸域)」
    3.堀 雅裕(宇宙航空研究開発研究機構
      「GCOM-C1/SGLIの観測からわかる雪氷変動〜積雪の面的+質的情報の抽出〜」
    4.村岡裕由(岐阜大学)
      「森林生態系炭素循環の統合的研究から衛星生態学による研究コミュニティの連携へ」


講演要旨:


1.GCOM-C1ミッションについて」 村上 浩(宇宙航空研究開発研究機構)

 JAXAは2014年打ち上げに向けて次世代グ ローバルイメージャ(Second generation GLobal Imager, SGLI)を搭載する地球環境変動観測ミッション(Global Change Observation Mission – Climate, GCOM-C)の開発・研究を行っています。GCOM-Cの主な目的は、放射収支・炭素循環に関わる全球観測を長期(5年×3機・重複1年で13年)に 渡って行い、気候システムの知見の獲得と将来予測に貢献することです。
SGLIは、2003年に運用されたADEOS-II衛星搭載のGLIと同様に、1000km以上の観測幅によって地上や大気を高頻度(2日に1回程度) 観測する可視〜熱赤外の受動型センサです。SGLIでは、GLIで行われた海面水温、海色、エアロゾル、雲、植生、雪氷などの観測技術の継承に加え、可 視〜近赤外11チャンネルの250m解像度化、熱赤外2チャンネルの500m解像度化(限定領域で250m解像度の運用も可能)、及び、赤と近赤外2チャ ンネルの偏光・斜視機能を搭載します。これらによって、高分解能での陸域や沿岸のモニタリング、偏光・近紫外による陸域エアロゾル推定、多方向視による地 上部バイオマス推定の改善を目指しています。
 2009年までにSGLIの設計検討や主な開発要素(波長分光フィルタ、偏光フィルタ、受光素子の冷却機器、それらを組み込んだ光学望遠鏡、太陽光拡散 版、熱赤外校正用黒体など)の試作・試験が行われました。今後、これらの結果を踏まえて打ち上げに向けた詳細設計や打ち上げ実機の開発が行われていく予定 です。
 GCOM-Cのアルゴリズム開発、基礎データ収集、モデル利用等に関する最初の研究公募が2009年1月に告知され、7月に海外のPIを含む35人の主 任研究者(PI)が採択されています。JAXA/EORC内の研究チームとこのPIによる研究チームが連携して、既存の衛星データや現場観測データを利用 してアルゴリズム開発や利用研究を進め、打ち上げ前における利用技術の向上と成果の発表をできるだけ進めていきます。EORCでは2009年から MODISの直接受信データを利用した1km解像度の日射や500m解像度の積雪分布データと画像の公開を行っており、2009年12月からは5km解像 度の全球データに拡張予定ですhttp://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/index.html)。また、打ち上げ1年程 前には、処理アルゴリズムの選定と打ち上げ後のデータ利用に向けた次の公募を計画しています。
 GCOMは、衛星観測を軸にして、気候システムの知見の獲得と将来予測に
繋げていくことを目指しています。この中でJAXAの 役割は主には衛星・センサとアルゴリズムの開発研究となりますが、JapanFlux、JaLTER、SKYNETといった地上でのフラックス・生態系・ 雲・エアロゾル・放射観測等との連携や、気象、海洋、生態系などの研究コミュニティーとの連携を進め、効果的に最終目的に繋げていきたいと考えています。


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2.GCOM-C1の目指すもの(陸域)」本多嘉明(千葉大学)

GCOM-Cは気候システムのより正確な理解を通して人類社会に貢献することを目指している(特に 炭素循環と放射収支の量的な把握)。現在、この目標を達成するために51個の標準プロダクトと研究プロダクトからなる高次データ作成アルゴリズムの開発が 進められている。3機のシリーズ衛星を運用し標準プロダクトを長期間(13年以上)提供することが具体的な目的である。 この高次データ作成アルゴリズム は主に35人のPIによって研究開発されている。このPIチームは2009年夏に形成された。陸圏のプロダクトを除く多くのプロダクト作成アルゴリズム開 発はADEOS-II/GLIの経験が活かされている。 GLIの経験は多くの検証方法でも利用される予定である。 これらの経験利用はプロジェクトの一層の効率化を可能とし開発時間短縮を可能とした。しかしながら、ADEOS / GLIプロジェクトにおける陸圏プロ ダクトは限られており、利用できる経験も少ない。したがって、陸圏では新しいアプローチによるアルゴリズム開発が必要である。 特徴的なものは多角観測を利用したアルゴリズム開発と陸域生態系モデルを利用したプロダクト生成アルゴリズムである。また、衛星がもたらすプロダクトと広 域化されたモデルの結果を相互比較し、お互いの精度向上や検証に役立てる枠組みができつつあることは特筆に値する。
 

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3.GCOM-C1/SGLIの観測からわかる雪氷変 動〜積雪の面的+質的情報の抽出〜」 堀 雅裕(宇宙航空研究開発研究機構

JAXAでは、地球規模での気候変動のメカニズムを解明するための気候変動観測衛星(GCOM-C)の打ち上げを計画している。GCOM-Cは、 多波長光学放射計(SGLI) を搭載した衛星を3世代にわたり継続的に打ち上げることにより、 雲、エアロゾル、海色、植生、雪氷などの観測を、13 年間継続的に行うミッションである。本講 演では、2014年頃の打上げを目指して準備が進められている第1GCOM-C衛星(GCOM-C1)搭載SGLIセンサを用いた雪氷観測 計画の背景および概要を紹介する。

SGLIは、200212月に打ち上げられたADEOS-II衛星搭載の光 学センサGLIの後継センサである。大気や地表・海表面の物理量を抽出するために選択された、19個の波長帯を近紫外域から熱赤外域までの波長域に有しており、雪氷圏プロダクトを解析するのに必要なチャ ンネルはGLIより引き継がれている。GLIミッ ションにおいては、面的な積雪・海氷分布とともに、雪氷面の融解過程を把握する上で重要となる雪氷面温度、積雪粒径(浅層、表面の2種類)、積雪不純物濃度の3種類の質的情報の抽出も 試みられた。解析アルゴリズムの開発はStevens Institute of TechnologyStamnes氏が、また地上検証観測は気象研の青木 輝夫氏が担当され、アルゴリズムの最適化および衛星データ解析を担当するJAXAをあわせた3者による共同体制のもとで、GLIデータを用いた雪 氷圏分野の研究開発が行われた。GLIが搭載されたADEOS-II衛 星は、残念ながら2003年の4-10月の7ヶ月間しか全球の連続データを取得できなかったが、北半球側の日照期間と重なった時期に、積雪・海氷域が最 大の季節から最小となる季節にかけての融雪過程の推移を捉える事に成功した。解析された積雪・海氷分布や雪氷面温度は、他の衛星プロダクトとも良好に一致 した。また、積雪粒径は、暖かい低緯度側では融けて大きくなり、逆に低温の高緯度側では小さく維持されるなど、雪氷面温度に強く依存した時空間分布を示し ていた。一方、積雪不純物濃度に関しては、積雪深の浅い地域や植生が密な地域などで過大評価になる傾向が見られたが、カナダ北部のツンドラ域やグリーンラ ンド氷床上では、過去の地上観測値に一致する低濃度値が得られた。地上検証観測値と比較した結果、積雪粒径(浅層)と雪氷面温度は良好に一致したが、不純 物濃度と積雪粒径(表面)にはバイアスが見られた。

 次期SGLIミッションにむけ て、GLIミッションで培ってきた経験をもとに、解析プロダクトの選定を行った。その結果、定常的に生産する標準プロダクトには、GLIでの検証結果が良 好であった積雪・海氷分布、浅層積雪粒径ならびに雪氷面温度を選定した。積雪不純物濃度と積雪粒径(表面)についても、研究プロダクトとして引き続きアル ゴリズム開発と地上検証を進めていく予定である。また、積雪物理量の精度向上に資するプロダクトとして氷床表面ラフネスや雪面上エアロゾル特性、森林・山 岳域積雪分布等が新たに定義された。研究体制に関してはGLIの体制が引き継がれ、より高精度の物理量抽出を目指して現在準備が進められている。なお、JAXAで 解析した光学センサのプロダクトが、次のサイトより順次公開されている(http://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/index.html)。

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4.森林生態系炭素循環の統合的研究から衛星生態学によ る研究コミュニティの連携へ 村岡裕由(岐阜大学)

生 態系機能の統合的解析・評価のためには,生態系を構成する生物学的・物理環境的要因の相互関係も考慮した観測や解析が必要とされ,それらは微気象学や生態 学的視点によるものが主であり,空間的スケーリングの際には衛星リモートセンシングが有効である。個々の手法や生態現象には特有の時空間的スケールや解像 度の違いがあるため,それによって生じる観測・解析結果の乖離を埋めるアプローチが必要である。特に,気候変動が生態系の構造と機能に及ぼす影響の検出や それに基づく生態系の脆弱性評価などについて広範な時空間スケールで研究しようとする場合には,生態系の構造と機能の持つ時空間スケールを十分に考慮した 観測・解析が必要であり,またはその手法を構築する研究が求められる。

『衛 星生態学』とは,陸域生態系の生態プロセス研究・水文気象プロセス研究・衛星リモートセンシング観測を融合して,局所スケールでの詳細な生態系構造−機能 関係の解明に基づいて広域の生態系機能の解明を可能とする研究アプローチである(Muraoka and Koizumi 2009, Journal of Plant Research 122: 3-20)。私たちはこれまでに,森林生態系炭素 循環研究のスーパーサイトである「高山サイト」を重点研究フィールドとして,植生構造のマルチスケールリモートセンシング,森林の生理生態学とCO2フ ラックスの統合的モデル解析など多角的な研究を統合的に推進し,(1)森林生態系のNEPを広範な時間スケールで規定する生態系生理学的要因の解明と,(2) 葉群の生理生態学的特性のリモートセンシング手法開発を行い,さらに(3)高空間解像度(100mメッシュ)を持つ『衛星生態学モデル』の構築により,複 雑地形での局所生態系の機能(NEPなど)とそれが流域圏としての生態系機能に果たす役割を解析できる研究プラットフォームの構築を目指してきた。また渦 相関法と生態学的手法による観測を組み合わせることにより,落葉広葉樹林の生態系純生産量や生態系内での炭素蓄積源の年変動について解明することもできた (Ohtsuka et al. 2009, Global Change Biology 15: 1015-1024)。

近年では,生態系の構造と機能の空間分布および動態を地球規模での気候変動や人間活動 の影響とともに解明することが世界的に強く求められている。日本では2003年度に環境省により「モニタリングサイト1000」が開始され,生態系の異変 をいち早く捉えて生態系および生物多様性の保全施策に繋げるべく活動が続けられている。また2006年には日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER) が発足し,変動環境下における大規模長期の観測や野外実験,環境教育を実施するための学際的なサイトネットワークを形成している。これら生物・生態学的視 点からの長期・多地点での研究・情報共有活動に加えて,微気象学的な手法により陸域生態系の二酸化炭素吸収・放出量の長期・連続観測により気候変動が陸域 生態系機能にもたらす影響とそのフィードバックを明らかにしようとするJapanFlux(日本CO2フラックス観測ネットワーク)がある。すでに進行し つつある気候変動が生態系に及ぼす影響,または生態系による応答を多角的に捉え,また局所スケールでの知見を日本やアジア地域での現象解明に繋げるべく, 最近ではこれらの観測ネットワークの協力関係の構築が推進されており,生態系現象の直接的な観測と衛星リモートセンシング,モデル解析の三位一体の研究を 目指す『衛星生態学』は,分野融合とネットワークおよび拠点連携の共有理念になりつつある。これらの連携を通じて,これまでに得られている衛星リモートセ ンシングデータの利用を進めるとともに,GCOM-Cのような近未来型衛星による生態系モニタリングとデータ解析に貢献することができる。




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