第8回統合的陸域圏研究連絡会
日時: 2010年5月23日(水)(日本気象学会2010年度春季大会第1日)
18:15〜20:15
場所: 国立オリンピック記念青少年総合センター
講演者および講演題目:
1.曽山 典子(天理大学)
「全球土地被覆分類システム構築上の問題点」
2.福江 潔也(東海大学)
「GCOM-C1土地被覆プロダクトを想定した分類アルゴリズムの開発」
3.古海 忍(奈良佐保短期大学)
「植生指標への意味づけと多波長データを用いた植生指標セットの提案に向けて」
講演要旨:
1.「全球土地被覆分類システム構築上の問題点」 曽山 典子(天理大学)
全球土地被覆分類データは,地球温暖化問題に関連
する炭素循環に関わる陸上バイオマス量や植物の純生産量の定量的推定,および地表面温度の推定などを行う上で非常に重要な情報であり,特に植生に関する分
類項目について精度を高めることが求められている。我々の研究グループでは,これまでにADEOS-II/GLIデータを使って,全球土地被覆分類プロダ
クトを生成するためのアルゴリズム開発を行ってきた。GLIの全球土地被覆分類システムを構築する過程において,以下の問題点があることがわかり,分類結
果の精度を高めるため,GCOM-C1が打ち上がる前までにこれらの問題を解決する必要があると考える(→以降は現時点で検討している方法)。
◆全球土地被覆分類クラスの定義
・分類クラス名とそれが示す土地被覆状態について,利用者と開発者が共通の認識を持っていない可能性があるい →
分類クラスの定義は利用者が土地被覆状態をイメージできる記述にする
・必要とされる分類クラスは利用者の研究目的によって異なり,分類クラスごとに許容できる精度も異なる → 保証できる精度別に分類クラスを構成する
◆土地被覆分類手法
・植生が活性である草地,針葉樹林帯,広葉樹林帯の分類は容易ではない
→ GCOM-C1/ SGLIの偏光および軌道方向の同時2方向観測から求める3次元情報を利用した植生の被覆状態を抽出する手法の開発
・低分解能データによる分類精度の限界 →
高分解能データセットを使って生成した分類情報の利用
◆全球土地被覆分類のトレーニングデータ,および検証用データの収集
・信頼性の高いトレーニングデータや検証データとして,全球レベルでground truth dataを収集することは容易ではない →
同分野研究者で情報を共有化,DCP(Degree Confluence
Project)データの利用,生物多様性情報システム自然環境保全調査データの利用,ALOSやSPOTの高分解能データセットを使って生成した分類情
報の利用,高分解能データで抽出した分類情報を低分解能情報にスケールアップする手法の開発
全球土地被覆分類プロダクトは,他の研究にとって有用な情報とならなければ生成する意味がないものとなる。そうならないためには,分類精度を上げる努力を
するとともに,利用者側の全球土地被覆分類情報に関する要望を収集し,分類情報を生成する我々と利用者の間で,分類クラスの土地被覆状況や許容できる精度
など共通の認識を持つ必要があると考える。
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2.「GCOM-C1土地被覆分類プロダクトを想定した
分類アルゴリズムの開発」福江 潔也(東海大学情報技術センター)
1.背景・目的
2013年度打ち上げ予定のGCOM-C搭載SGLI地表反射率プロダクトを入力データと想定した全球土地被覆分類アルゴリズムを開発することが最終目標
である.現在SGLIデータは存在していないので,それに類似したMODIS Land
Band(バンド1〜7)の地表反射率データを対象として,特性が未確定のSGLIデータに容易に適用可能な柔軟性・拡張性の高い土地被覆分類アルゴリズ
ムを開発するのが現在の目的である.
2.分類アルゴリズム
分類アルゴリズムは,どのような特徴量を使用して,どのように分類・識別を行うのかという2点,すなわち使用する特徴量と識別器によってその基本的な性格
が特徴付けられる.まず,分類に使用する特徴量については,時領域同時生起行列と名付けた特徴量を考案した.これは,画像平面上で定義される従来の同時生
起行列を時系列方向で定義し直したものであり,これにより地表反射率の時系列遷移(対象物の季節変化情報)を捉える.時領域同時生起行列では,多時期の地
球観測データで頻発する雲・雪などによる地表反射率の欠損に対して頑健であるため,そのようなデータ欠損に対処するための内挿などの前処理は不要になる.
さらに,分光反射率のスペクトル空間で処理対象の1年分の画素データをクラスタリングして得られるクラスタ(ID番号)について時領域同時生起行列を求め
て反射率の季節変化ではなくクラスタの遷移として季節変化を捉えれば,反射率の不規則な変動がそのクラスタの拡がりの中に吸収される.そのため対象データ
について従来なされることが多い時系列方向の平滑化という前処理も不要になることが期待される.
次に,分類に使用する識別器については,従来よく使用されているツリー状分類のようなパラメトリック分類は,当然パラメータに依存して識別器そのものが構
成されてしまい,MODISデータにはよいかもしれないが,本来目的とするSGLIデータに対応できるかわからない.そこで,本研究では時領域同時生起行
列について何らかのパラメータを取り出して,それを識別器に入力すのではなく,時領域同時生起行列そのものをそのまま識別器へ入力するノンパラメトリック
最短距離法を使用する.
3.分類実験結果
土地被覆カテゴリーとしてIGBPで作成された17カテゴリーを設定し,サブカテゴリーを含めた40クラスに対して,各クラスあたり平均約9,000画素
の訓練領域について時領域同時生起行列を求めた.一方,分類対象画像の各画素についても時領域同時生起行列を求め,それと最も類似した分類クラスをノンパ
ラメトリック最短距離法で決定した.各分類クラスの訓練領域からクラスあたり500画素をランダムサンプリングして得られた画素をテストサンプルとして,
得られた分類結果の分類精度を評価したところ,既存のMODIS土地被覆プロダクトが70%〜80%の(カテゴリーあたりの)平均分類精度であったのに対
して,提案手法では反射率に基づく時領域同時生起行列を使用した場合93%程度,スペクトルクラスタに基づく時領域同時生起行列を使用した場合
94%〜96%の(カテゴリーあたりの)平均分類精度が得られることがわかった.
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3.「植生指標への意味づけと多波長データを用
いた植生指標セットの提案に向けて」 古海 忍裕(奈良佐保短期大学)
人工衛星により観測された多波長反射率データを用いた植生指標は、植覆率やバイオマス量、光合成有効放射吸収率など、様々な
植生状態を表す指標として数多く開発されている。注目する植生状態を他の情報と分離・独立して反映できる植生指標が望まれるが、実際には、様々な植生状態
に関する情報を内包した植生指標となることが多く、植生指標の意味づけは困難といえる。
本研究では、植生純一次生産量(NPP)、もしくは総生産量(GPP)に着目し、これらを導出する過程で必要となる、植生状態を表す植生指標群の開発を目
的とする。NPP(GPP)を求める過程において、光合成有効放射(PAR)を吸収する過程(光反応)と吸収した二酸化炭素を固定する過程(炭素還元反
応)の2つに分けて考える。光反応が主に葉内のクロロフィル濃度に依存するのに対して、炭素還元反応は気温、飽差、土壌水分など周辺の環境要因に依存す
る。葉のもつ特性としては主にクロロフィル濃度で光合成のポテンシャルである最大光合成量が決まり、環境要素で最大光合成量が律速されることになる。そこ
で、初段階として光合成に適した環境下での最大光合成量maxPを、多波長反射率データを用いた植生指標により推定する。
個葉レベルとキャノピーレベルの反射率と光合成測定データを用いて、植生指標と最大光合成量をモデル化する。キャノピーレベルのモデル化には、Flux
タワーによる測定データとADEOS-II/GLIによる反射率データを用いる。飽差に条件付けすることで、できるだけ光合成に適した環境下での最大光合
成量を求め、月別の変化を示したものが図1(a)である。同様に、衛星データから求めた植生指標MVIUPDの月別変化を図1(b)に示す。植生指標が最
大光合成量の傾向を反映してはいるが、光合成に最適な環境での最大光合成量の抽出方法や人工衛星データによる多波長データを用いた植生指標の特性など、今
後の検討事項である。
次に、このキャノピーデータと個葉の最大光合成量と植生指標との関係を図2に示す。分布はばらついており、植生指標が最大光合成量を線形的に反映している
とは言い難い。前述のように、植生がもつ光合成のポテンシャルとなる最大光合成量を観測データからどのように抽出するか、また、多波長反射率データからど
のような植生指標を導出するかが次の課題である。この後、環境要因による最大光合成の律速をどのようにモデル化するかに取組む予定である。
図1(a) 最大光合成量の月別変化
図1(b)植生指標MVIUPDの月別変化
図2 植生指標と最大光合成量との関係c.jaxa.jp/JASMES
/index.html)。
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