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第9回統合的陸域圏研究連絡会


日時: 2010年10月27日(日本気象学会2010年度秋季大会)

場所: 京都テルサ

講演者および講演題目:

    1.
佐藤 永(名古屋大学)
  「気候モデルで用いられる植生モデルの概要、トレンド、問題点」
    2.伊勢武史(海洋研究開発機構)
  「陸域生態系モデルの今後の発展の方向性と応用の可能性」

    3.加藤悦史(海洋研究開発機構)
  「予測モデルで利用される、土地利用シナリオ、土地利用変化排出推定プロトコルについて」

講演要旨:


1.気候モデルで用いられる植生モデルの概要、トレン ド、問題点」 佐藤 永(名古屋大学大学院 環境学研究科)

気候変化が生じても、その新しい気候に適応した植 物生態系が生じるまでには数百年から数年年スケールにおける時 間遅れがあると
考えられている。なぜならば、植生が変化するまでには、新しい気候環境に適応した植物が侵入し、それが既存植生と競争を行いながら、
徐々に優占度を高めていくといった、一連の過程が必要だからである。動的全球植生モデル(DGVM)では、このタイムラグの長さを決める
植物個体群動態過程(定着・光や水を巡る競争・死亡・攪乱)を扱うための、個体群動態モジュールが結合されている。近年のDGVM では、
木々の個体間相互作用も陽に扱われており、より詳細な生態学的知見をモデルに反映させる試みが進められている。しかしながら現状に
おいては未だ、種子拡散速度や、気候変動に対しての木本の死亡率変化など、植生変動を予測する上で極めて重要と思われる要素が、
無視されていたり、ごく簡単な仮定がおかれている。本講演では、気候モデルで用いられている植生モデルの諸状況を俯瞰し、その中で
信頼性をもっとも損なっていると考えられる要素を取り上げる。そして、そのような状況が生じた理由を考察し、その改善のために何が
必要であるのか、研究の方向性に関して提案を行いたい。

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2.「陸域生態系モデルの今後の発展の方向性と応用の可 能性伊勢 武史(海洋研究開発機構)

近年進歩の著しい陸域 生態系モデルの世界的なトレンドを概観し、これからの発展の方向性
を考える。もっとも基礎的な陸域生態系モデルは、いわゆるBig leaf モデルである。地表面の
均質性を仮定し、環境条件に応じて単位面積あたりの光合成量・生産量・バイオマスなどを推
定する、まるで地表を一枚の大きな葉が覆っているかのような仮定に基づいたモデルである。
このモデルは基本的な物質循環(炭素や水など)と環境変化への応答を再現することができる
が、不均質性やタイムラグの表現に弱い。たとえば、環境変化によって起こる種の遷移の過渡
的な変化を再現するには、SEIB-DGVM などの個体ベースモデルが有利である。ところが、個
体ベースモデルはその複雑さゆえに全球をカバーしきれないというスケールの問題が生じる。
そこで、いま脚光を浴びているのは、個体をサイズ・年齢ごとに階層化し個体群の挙動を統計
的に表現する近似モデル(size- and age-structured approximation, SAS)である。空間スケー
ルの問題を解消し飛躍的な高速化が実現するため、全球レベルでのシミュレーション研究で
はこの手法を用いるのが、次世代の主流になりつつある。
では、このような陸域生態系モデルを利用して、具体的にどのような研究ができるだろうか。第
一に挙げられるのは、本連絡会で登場したような、大気・海洋大循環モデルや大気化学モデ
ルと結合された地球システムモデルのコンポーネントのひとつとして気候変動との相互作用を
分析することである。このような研究は気候変動に関する研究の中核をなすものであるが、地
球システムモデルは非常に複雑で計算力の要求も高い。そこで、簡略気候モデルを利用する
ことでコンピュータ関連のハードルが大幅に下がり、生態学者が気候モデルを用いた研究を行
う環境が現実に整いつつある。
では、このような陸域生態系モデルを利用して、具体的にどのような研究ができるだろうか。第
一に挙げられるのは、本連絡会で登場したような、大気・海洋大循環モデルや大気化学モデ
ルと結合された地球システムモデルのコンポーネントのひとつとして気候変動との相互作用を
分析することである。このような研究は気候変動に関する研究の中核をなすものであるが、地
球システムモデルは非常に複雑で計算力の要求も高い。そこで、簡略気候モデルを利用する
ことでコンピュータ関連のハードルが大幅に下がり、生態学者が気候モデルを用いた研究を行
う環境が現実に整いつつある。

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3.
予測モデルで利用される、土地利用シナリ オ、土地利用変化排出推定プロトコルについて」 加藤 悦史(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

社会・経済的要因に起因する過去から現在にわたる土地利用および土地利用変化は、温室効果ガスやエアロゾルの排出、アルベド や
蒸発散等の地表面の物理環境特性の改変を起こし、気候変動へ寄与している。特に、全球レベルでの陸域生態系と大気間の炭素収支バ
ランスを明らかにするためには、森林伐採による排出と耕作地放棄による植生再成長を通した吸収を考慮した、人為的な土地利用変化
による炭素フラックスを正確に推定することが必要である。IPCC AR5 における地球システム統合モデルでは、これらの人為的な
土地利用変化を陸域生態系モデルおよび陸面モデルに組み込み、大気へのフィードバックを含んだ気候変動予測を行う。この過程にお
いて、モデルの入力データとなるRCP シナリオ作成とともに、0.5度グリッド解像度での過去から将来シナリオにわたる全球空間詳細
な土地利用変化遷移データが整備された。また、このRCP シナリオデータによる実験結果の解析より、今後の新しい気候変動シナリオ
作成を進めていくことになっている。本講演では、これまでの全球土地利用変化炭素排出研究の概要と問題点について触れたのち、
IPCC AR5 の実験で用いられる土地利用データとシナリオ、および、これら土地利用データの地球システム統合モデルでの取扱いについ
て説明し、陸域生態系モデルによる土地利用排出シナリオの整合性の解析結果を示した。

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