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第10回統合的陸域圏研究連絡会


日時: 2011年5月18日(日本気象学会2011年度春季大会)

場所: 代々木オリンピックセンター

講演者および講演題目:

    1.
篠田 雅人(鳥取大学)
  「干ばつメモリの動態:フィールド実験の意義」
    2.中野 智子(中央大学)
  「半乾燥草原生態系におけるCO2収支の推定」

    3.飯島 慈裕(海洋研究開発機構)
  「寒冷圏陸域の地温・土壌水分メモリ」

講演要旨:


1.干ばつメモリの動態:フィールド実 験の意義」 篠 田 雅人 (鳥取大学)

(準備中)

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2.半乾燥草原生態系におけるCO2収 支の推定中野 智子(中 央大学)

陸域生態系は光合成・ 呼吸を通して大気とCO2 を交換しているが、その収支は年々の気
候変動などの影響を受け変動している。本研究では、アジアに広く分布する半乾燥草原生
態系に注目し、大気−生態系間のCO2 収支の年々変動を明らかにすることを目的として、
主に現地観測を中心とした研究を行っている。
研究対象地域はモンゴル国の中央部に位置する半乾燥草原(46〜48°N、105〜110°E)で
あり、CO2 フラックスならびにその変動要因となる気象・土壌・植生要素の現地観測を実
施した。2004 年から2006 年にかけては、首都ウランバートルの南西約130km に位置する
バヤンウンジュル村(47°02.6’N、105°57.1’E)において経時変化の把握を目的とした観測
を行い、2009 年以降は上記の対象地域内における空間分布を明らかにするため多点的な観
測を実施している。CO2 フラックスの測定は、密閉式チャンバー法と渦相関法を併用した。
まずチャンバー法の測定結果と環境要素の測定値から、光合成速度・生態系呼吸速度のそ
れぞれを推定するモデルを構築し、そのモデルに従って推定した値を渦相関法の観測結果
で検証した。
光合成速度(GPP)は植物の地上部バイオマス(AGB)と非常に高い線形相関を示した
ため、通常単位地表面積あたりで表される光合成速度をバイオマスの値で除し、単位バイ
オマス(乾燥重量)あたりの光合成速度(GPP/AGB)を求め、その上で光合成有効放射量
(PAR)・気温・飽差・土壌水分との関係を解析し、これらをパラメータとする推定モデル
を作成した。生態系呼吸速度(Reco)は一般に報告されているとおり、地温の指数関数でよ
く近似できたため、まず各測定期間・各測定点における実測値を地温の指数関数で回帰し、
その関係から20℃におけるReco(R20)を算出した。R20 の値は土壌水分および地上部バイ
オマスのいずれに対しても高い正の相関を示したが、土壌水分と地上部バイオマスの間に
も正の相関が見られるため、これら2 つの要素の影響をどのように分離するか検討する必
要がある。ここでは、R20 をAGB で直線回帰し、その残差と土壌水分との関係を対数式で
近似するモデルを作成した。
以上の推定モデルに、バヤンウンジュルで実測したPAR・気温・飽差・地温・土壌水分
量の30 分値とNDVI(MODIS)から推定した地上部バイオマスの値を入力して、GPP・
Reco 各々の値を算出し、さらにその差から正味のCO2 交換フラックス(NEE)を算出した。
2009 年ならびに2010 年の夏季(6〜8 月)について計算を行い、渦相関法で測定したNEE
との比較を行ったところ、推定値と実測値は良い一致を示し、本研究で作成した推定モデ
ルが夏季については比較的高い精度を持っていることが検証できた。今後、空間分布につ
いても推定を行っていくほか、通年でのCO2 収支を明らかにするために、冬季、特に凍結・
融解サイクル時のCO2 フラックスについて研究を進めたいと考えている。

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3.
寒冷 圏陸域の地温・土壌水分メモリ飯 島 慈裕(海洋研究開発機構)

寒冷圏陸域の気候メモリは、古くはユーラシア大陸の積雪とインドモンスーンの気候学
的関係から研究が始まった。その後、融雪水文学的効果として知られる土壌水分偏差の季
節的な持続や、さらに冬の季節凍土発達に伴う地温偏差との共変動的関係などが考慮され、
寒冷圏陸域がもつ重要な気候へのフィードバックとして、依然主要な研究対象となっている。
本発表では、寒冷圏陸域の土壌水分・地温偏差の気候メモリ効果を概観すべく、ユーラ
シア大陸で見られた主として観測事実に基づく事例を紹介した。
1 つ目は、ユーラシア大陸西部から中央アジアにかけての土壌水分メモリである。ロシア
の長期土壌水分データから、有意な土壌水分偏差が持ち越される地域は、秋の降水量が圃
場容水量の範囲で土壌水分として蓄えられる地域で、かつ冬の平均気温が-10℃以下となる
寒冷な内陸地域に向かうほど、秋から翌年春・夏まで続く長期的な土壌水分偏差が維持さ
れることが示された。これらの地域は3 月から4 月にかけての融雪水の供給によって、さ
らに土壌水分偏差が強調されるため、積雪量も偏差を生む重要な要因の1つとなる。
2 つ目として、上記の典型的な土壌水分メモリの残る地域として、北部カザフスタン草原
を挙げた。そこでは、8-9 月に最小となった土壌水分量が、翌年春までに再充填される過程
として、秋の降水、冬の積雪による融雪水量が、ともに4 割を超える寄与をもち、春から
夏の降水量を超える草原からの蒸発散量を補填する水資源として、重要な効果をもつこと
が示された。100cm 深の土壌では、4-9 月の積算量にして90mm に達する土壌水分が減少
しており、蒸発散量に補填されていると考えられる。特に7-9 月にかけては50cm 以深の寄
与の重要性が示された。
3 つ目は、永久凍土南限のモンゴル北部に広がる森林−草原のエコトーン地域における、
積雪・地温偏差が翌年の森林蒸散量に与える影響である。冬のモンゴルは10cm 程度の積雪
量で水資源としての効果は薄いが、その年々変動は冬季の地温偏差に大きく影響を与えて
いた。10cm の積雪深は、しもざらめ層の発達による冬の冷却を遮断する効果が働く閾値と
なることが示された。2003〜2010 年の観測結果から、その地温偏差は、消雪後の表層土壌
の融解時期、さらに森林の展葉時期を規定し、その早遅がその後の土壌水分量偏差と組み
合わさることで、盛夏の森林蒸散量の年々変動に影響する様子が確認された。
最後に、東シベリア、ヤクーツクでの冬季をまたぐ地温・土壌水分メモリである。この
地域では、秋の降雨は土壌水分を増やし、冬季の地温低下を抑制する関係があるとともに、
積雪深も地温変動と有意な相関を持つ。特に最近10 年間では、降雨・積雪ともに増加して
おり、土壌水分を増やし、地温低下を抑制する強い偏差を生み出していた。これに消雪時
期の偏差が組み合わさると、5 月の展葉時期に影響を与え、北方林上の潜熱量(蒸発散量)
の偏差を生み出すことが陸面モデルの解析結果から示された。
以上の事例から、秋の降水量、積雪開始時期、積雪深(水量。層構造)、消雪時期などの
偏差の重なり合いが、土壌水分、地温の偏差を増幅し、引き続く春−夏の陸域の熱・水・
物質循環の偏差の持続が現れる様子が強く示唆された。これらの偏差を生み出す外的要因
の連動性を意識することで、寒冷圏陸域での気候メモリの実態は、より深く理解できると
考えられる。

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