第10回統合的陸域圏研究連絡会
日時: 2011年5月18日(日本気象学会2011年度春季大会)
場所: 代々木オリンピックセンター
講演者および講演題目:
1.篠田 雅人(鳥取大学)
「干ばつメモリの動態:フィールド実験の意義」
2.中野 智子(中央大学)
「半乾燥草原生態系におけるCO2収支の推定」
3.飯島 慈裕(海洋研究開発機構)
「寒冷圏陸域の地温・土壌水分メモリ」
講演要旨:
1.「干ばつメモリの動態:フィールド実
験の意義」 篠
田 雅人
(鳥取大学)
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2.「半乾燥草原生態系におけるCO2収
支の推定」中野 智子(中
央大学)
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寒冷圏陸域の気候メモリは、古くはユーラシア大陸の積雪とインドモンスーンの気候学
的関係から研究が始まった。その後、融雪水文学的効果として知られる土壌水分偏差の季
節的な持続や、さらに冬の季節凍土発達に伴う地温偏差との共変動的関係などが考慮され、
寒冷圏陸域がもつ重要な気候へのフィードバックとして、依然主要な研究対象となっている。
本発表では、寒冷圏陸域の土壌水分・地温偏差の気候メモリ効果を概観すべく、ユーラ
シア大陸で見られた主として観測事実に基づく事例を紹介した。
1 つ目は、ユーラシア大陸西部から中央アジアにかけての土壌水分メモリである。ロシア
の長期土壌水分データから、有意な土壌水分偏差が持ち越される地域は、秋の降水量が圃
場容水量の範囲で土壌水分として蓄えられる地域で、かつ冬の平均気温が-10℃以下となる
寒冷な内陸地域に向かうほど、秋から翌年春・夏まで続く長期的な土壌水分偏差が維持さ
れることが示された。これらの地域は3 月から4 月にかけての融雪水の供給によって、さ
らに土壌水分偏差が強調されるため、積雪量も偏差を生む重要な要因の1つとなる。
2 つ目として、上記の典型的な土壌水分メモリの残る地域として、北部カザフスタン草原
を挙げた。そこでは、8-9 月に最小となった土壌水分量が、翌年春までに再充填される過程
として、秋の降水、冬の積雪による融雪水量が、ともに4 割を超える寄与をもち、春から
夏の降水量を超える草原からの蒸発散量を補填する水資源として、重要な効果をもつこと
が示された。100cm 深の土壌では、4-9 月の積算量にして90mm に達する土壌水分が減少
しており、蒸発散量に補填されていると考えられる。特に7-9 月にかけては50cm 以深の寄
与の重要性が示された。
3 つ目は、永久凍土南限のモンゴル北部に広がる森林−草原のエコトーン地域における、
積雪・地温偏差が翌年の森林蒸散量に与える影響である。冬のモンゴルは10cm 程度の積雪
量で水資源としての効果は薄いが、その年々変動は冬季の地温偏差に大きく影響を与えて
いた。10cm の積雪深は、しもざらめ層の発達による冬の冷却を遮断する効果が働く閾値と
なることが示された。2003〜2010 年の観測結果から、その地温偏差は、消雪後の表層土壌
の融解時期、さらに森林の展葉時期を規定し、その早遅がその後の土壌水分量偏差と組み
合わさることで、盛夏の森林蒸散量の年々変動に影響する様子が確認された。
最後に、東シベリア、ヤクーツクでの冬季をまたぐ地温・土壌水分メモリである。この
地域では、秋の降雨は土壌水分を増やし、冬季の地温低下を抑制する関係があるとともに、
積雪深も地温変動と有意な相関を持つ。特に最近10 年間では、降雨・積雪ともに増加して
おり、土壌水分を増やし、地温低下を抑制する強い偏差を生み出していた。これに消雪時
期の偏差が組み合わさると、5 月の展葉時期に影響を与え、北方林上の潜熱量(蒸発散量)
の偏差を生み出すことが陸面モデルの解析結果から示された。
以上の事例から、秋の降水量、積雪開始時期、積雪深(水量。層構造)、消雪時期などの
偏差の重なり合いが、土壌水分、地温の偏差を増幅し、引き続く春−夏の陸域の熱・水・
物質循環の偏差の持続が現れる様子が強く示唆された。これらの偏差を生み出す外的要因
の連動性を意識することで、寒冷圏陸域での気候メモリの実態は、より深く理解できると
考えられる。