第13回
統合的陸域圏研究連絡会
日時: 2012年10月3日(日本気象学会2012年度秋季大会)
場所: 北海道大学学術交流会館
講演者および講演題目:
1.早坂 洋史(北海道大学)
「気候変動下での森林火災について-アラスカ,シベリア,インドネシアなどでの火災動向」
2.中右 浩二(北海道大学)
「人工衛星を用いた森林火災監視システムの開発とその応用」
講演要旨:
1.「気候変動下での森林火災について-アラスカ,シベリア,インドネシアなどでの火災動向」 早坂 洋史(北海道大学)
人類に残された森林地帯の北方林(タイガ)と熱帯林での森林火災について報告した。研究対象地域は、北方林
は米国アラスカ州、ロシア全域(サハ共和国、モンゴルなどを含む)、熱帯林はインドネシア全域である。森林火災
の分析に使用したデータは、アラスカとサハの過去約60 年間分のデータと、インドネシアとロシア全域に関しては、
2002 年以降のNASA MODIS のホットスポット情報である。
@. インドネシアの最近の森林火災発生状況
2002〜2011 年の10 年間のホットスポット(以下HS) 分布を図1に示した。解析セルは緯度経度が各々1 度である。
セル内のHS 数の年平数を求めた結果、1,000 個(HS/(yr.cell))を越すセルが11 個あることがわかった(図1中に
H1〜H11 で示した)。HS が高い地域は、カリマンタン島南部中央(5 セル)と、スマトラ島の北部(5 セル)と南部(1 セ
ル)であった。これらのHS が高い地域は熱帯泥炭地にあり、泥炭湿地林の開発に伴う森林と泥炭火災の多発地域と
言える。特に、H1 セルはMRP(メガライス計画地)を含む乱開発が行われている地域である。インドネシアの火災
は北スマトラを除き乾期の8〜10 月に約70%発生する。また、エルニーニョ年に干魃となり大火災が発生している。
泥炭火災によるヘイズと大量の二酸化炭素排出が地球規模の環境問題となっている。
図1 インドネシアのホットスポットHS 分布図
A. ロシア全域(サハ共和国、モンゴルなどを含む)の最近の森林火災発生状況
2002〜2010 年の9 年間のHS 密度分布を図2 に示した。解析セルは緯度5 度、経度10 度で、各セルの中心の黒丸
の大きさでHS 密度を示してある。バイカル湖東部のチタ付近が特に高いHS 密度である。モスクワ南方から
オムスク付近までの北緯50〜55 度のHS 密度も高く、ロシアの火災ベルトと呼べる。ヤクーツクのレナ川西方域も
HS 密度が高い。この他、アムール川沿いのHS 密度も高い。7 月が夏の火災のピークで、高緯度ほどほとんどの火災
が7 月に発生する。エニセイ川より東側のタイガは、主にカラマツで、燃え方は地表火が主でアラスカのトウヒの
ような激しい樹冠火は少ないとされている。火災が乾燥年におきると、広大な面積が燃えてしまうこと、林床の落
ち葉層(泥炭)も燃えること、永久凍土に影響を与えること、森林再生に長期間かかることなどで、シベリアの森
林火災は地球規模の気候変動に与える影響は少なくないと言える。
図2 ロシア全域(サハ共和国、モンゴルなどを含む)のホットスポットHS 密度分布図
B. アラスカの森林火災発生状況
アラスカはカナダに次いで、1950 年代ころからの森林火災のデータ有しており、約半世紀の発生傾向を見て取れ
る。1956〜2010 年の雷が原因の森林火災での焼損面積を図3 に示した。アラスカの森林火災の最近の傾向は、図3
の焼損面積順で見てみると、明確に示された。過去55 年間で焼損面積が大きな年は11 年あり、50 年代は1957 年、
60 年代は1969 年、70 年代は1977 年、80 年代は1988 年と大火災は10 年に一度の発生であったものが、90 年代は
1990,1991,1997 年の3 年、2000 年代は2002,2004,2005,2009 年の4
年と大火災の発生頻度が高くなっていること
がわかる。特に、2004,2005 年には歴代1 と3 位の大火災が2 年連続で発生し、この2 年焼損面積の合計はアラス
カの森林面積の10%に相当する45,700km2 に達した。この大火災の背景の一因に森林火災の着火源である雷活動の活
発化が考えられる。実際に2004,2005,2007 年の3 年は年間落雷数が12 万回を越え、平均4 万回/年の3倍を記録し
ている。2004,2005 年の焼損面積の大きかった原因と2007 年の焼損面積が小さかった理由を雨量、気温、天気図、
HS などで検討した。この結果、2004 年はカナダ方面から伸びる気圧の尾根がアラスカに張り出し、日照りが続き気
温も高く、6 月中旬の雷で森林が着火され長期間継続した事で焼損面積が1,000 km2 を越す大火災が沢山発生したこ
とがわかった。2005 年は北方からの寒気団の流入があり1 日9 千回を超す雷発生が3 回もあり、雨が多かったもの
の7 月中旬からの日照りで焼損面積が大きなものとなった。これらの年に比べ、2007 年は雨が多く、6 月にほとん
ど森林火災が発生しなかたこともあり、平年並みの焼損面積の年となった。以上のアラスカのように気温の上昇に
より雷が多発する傾向のある地域では、気候変動により、森林火災が増加する傾向にあると言える。アラスカの森
林火災はトウヒ林の樹冠火で激しく、林床も厚いコケ類の泥炭層をも焼き尽くすので、シベリアと同様に地球規模
の気候変動に与える影響は少なくないと言える。
図 3 アラスカの森林火災の焼損面積順での発生傾向
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2.「人工衛星を用いた森林火災監視システムの開発とその応用」 中右 浩二(北海道大学)
IPCC 第4 次報告書によれば、林野火災などで17〜41
億トンの炭素が放出され、これは陸域NPP の3〜8%や、
化石燃料燃焼の25〜50%に相当する。それゆえSGLI による林野火災検出により1)燃焼によるバイオマス
損失量の推定、2)消防機関による利用、3)住民の安全安心な生活の確保、の3 点に資する事は非常に重要である。
特に災害対策面ではMODIS 林野火災監視は実用化が進んでいるが、分解能が1km と粗く各国の消防機関は
位置精度に不満を持つ。他方無償の高分解能赤外観測(ASTER, ETM+)は16 日間隔と頻度が限られ、林野火災
対策には不十分である。しかし2013 年度以降順次複数の中高解像度熱赤外線カメラが打ち上げられる予定で、
これらを活用した林野火災監視が期待されている。これらとGCOM-C1 衛星のSGLI センサを併せれば状況は一変し、
ほぼ毎日中高解像度の火災監視が可能となる(図1)。
筆者はインドネシアにおける泥炭管理SATREPS プロジェクトで、東京大学、JAXA、イ国宇宙庁やパランカラヤ大学と
協力し、MODIS を利用した林野火災監視システムを構築している。先進国では林野火災情報をWeb サイト上の地図を
用いて伝達できるが、途上国ではインターネットが普及していない事、消防隊員の地図判読能力が限られるために、地図
は不適切である。そこで、本研究では携帯ショートメッセージサービス(SMS)を用いて、林野火災の位置と伴に燃えやすさの
指標を提供するシステムを構築した。イ国にとどまらず、南部アフリカ等の火災多発地域では、林野火災監視に期待が大きい。
今後、先述の赤外センサの高精度の林野火災位置情報や、気象関連の火災危険度情報が得られれば、林野火災対策に
対する国際貢献における日本役割が幅広くなると考えられる。
図
1:国産の熱赤外センサ群による林野火災監視(一定頻度を維持しつつ空間精度を向上)
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