テーマ:「気候変動に伴う陸面水循環の変化、及びそれが人間活動へ与える影響」
日時:2018年10月29日(月)(大会初日)17:00〜19:00
場所:仙台国際センター 2F 小会議室5 (※3Fの小会議室6から変更となりました!)
気候変動が人間活動に及ぼす影響の大半は、陸域水循環の変化(例えば、洪水リスク、河川の季節的な流況パターン、潜在的に最大限利用可能な水資源量の変化)を通じて生じると指摘されている。よって、気候変動予測を人間社会の適応策に繋げるためには、気候変動に伴った陸域水循環変化の予測が欠かせない。さらに、陸域水循環の変化は、陸面の熱水収支を通じて気候変動に対してもフィードバックする。今回の研究会では、新田友子氏(東京大学生産技研)、横畠徳太氏(国立環境研)、岡田将誌氏(国立環境研)の3名を話題提供者に招き、気候変動に伴った陸域水循環の変化、およびそれが人間社会に与える影響(主に農業生産や土地利用)についての研究成果をご紹介頂き、このような予測研究の信頼性や利用可能性を高める上での今後の課題について議論する。
今秋も気象学会の会場をお借りして、勉強会を開催しました。演者は、東京大学生産技研の新田友子さん、国立環境学研究所の岡田将誌さんの2名で、会場を借用できる2時間ギリギリまで、ご発表・質疑応答で盛り上がりました。参加者は、話題提供者2名、世話人(OB含む)7名、そして一般参加者16人の合計25名で、本会が開催する勉強会としては盛況なものとなりました。
新田さんからは、東大生産技研で開発が進められているIntegrated Land Simulator (ILS)の概要と、ILSを用いた解析例についてご紹介頂きました。洪水、河川流路網、人による水利用といった様々な陸水過程は、そのモデリングにおいて考慮するべき素過程や必要な時空間解像度が異なるため、それぞれを扱う専用モデルが開発されてきました。ILSでは、それらをカプラーを介して接続することで、各モデルの独立性を極力保ったまま、陸水過程にかかわる統合的な解析を可能にする仕掛けです。このカプラーには気候モデルMIROCが結合されており、大気陸面間の相互作用が扱えるようになっていますが、それによる気候バイアスが生じてしまうなどの、ご苦労などについても語って頂きました。
岡田さんからは、作物生産性-水資源予測結合モデルCROVERについてご紹介頂きました。作物の生産においては、灌漑が重要な役割を果たしていますが、殆どの作物生産性モデルで灌漑が考慮される際には、外部モデルの出力が利用されるとのことです。しかし実際の灌漑においては、気候変化や土地利用変化に応じてその必要量が変化し、また作物間・産業間・水域間で水資源を巡る競合が生じるなどの動的構造があるため、灌漑における水制約を独立した量として扱うアプローチは、様々な単純化や仮定を伴うものと言わざるを得ません。CROVERは、このような灌漑における水制約を動的に考慮する世界でも3つしか存在しないモデルの1つとのことです。本ご講演では、CROVEを適用した例として、中国東北部のダイズ生産地において、上流域と下流域とで灌漑に利用する水資源量に競合がある時に、流域全体のダイズ生産量が灌水の行い方により異なってくるという計算例をお示し頂きました。
どちらのご発表でも、人の生活に直結する計算例が示されており、近い将来における河川や灌漑の管理において、このような統合的なシミュレーターが普通に使われるようになるという印象を持ちました。しかし、その重要性にも関わらず、少なくとも我が国においては開発に関与しているマンパワーが極めて少なく、いかに若い才能を継続的に投入できるかが課題であるとも感じました。