Last update: 28 Feb 2006

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SEIB-DGVM御利用のすすめ

SEIB-DGVMの利用をお勧めする、これだけの理由

SEIB-DGVMは、気象学者からの要請を開発の契機としており、大気から見た陸面生態系機能を、数百年という時間スケールにおいてシミュレートさせる事が本来の目的です。しかし同時に、SEIB-DGVMは生態学者に対しても高い利用価値をもたらすと確信しています。以下に、生態学者の皆様がSEIB-DGVMを使うメリットを挙げていきます。

@植生動態研究と物質循環研究との間に接点をもたらす事ができる
SEIB-DGVMでは、植生動態と炭素・水循環とが互いに連動していますので、「植生動態研究」と「陸面物質循環研究」という、これまで殆ど別個に進められていた両分野に接点をもたらすことができます。例えば、森林動態と各種フラックスとの両者を計測しているような調査地においては、これら両者の知見を摺り合わせるための機会を提供できるでしょう。

A細分化した生態学を、物質循環を軸として統合するツールとすることができる
陸面生態系システムは複雑な相互作用系です。そのような系では、サンプルサイズさえ十分に大きければ、どのような変数の組み合わせであっても、統計的に有意に相関してしまいます。ですので、「AとBとを同時に計測したら、有意な相関があった!」なる研究様式は、必ずしも現象の理解に直接結びつくわけではありません。では、一体何をもって現象を理解できたといえるのか、というのが生態学における大きな課題であると考えます。一つの、しかし究極的な解決方法とは、着目する現象を物質循環モデルに連結させる事だというのが私の考えです。なぜならば、その現象が生じるまでの諸過程を真に理解してこそ、定量的モデルの出力が現実の測定値と一致するからです。そして、このような研究の方向性は、細分化した生態学を物質循環を軸として統合する機会を提供するでしょう。SEIB-DGVMは、その過程において、中心的な仕組みとして機能させることができます。

B評価や予算、そして就職の機会を増す上で、大きな助けとなる(かもしれない)
従来、生態学研究の予算申請書において「気候変動が生態系に与える効果を知る上で必要である」とか「温暖化へ向けた対策に有用である」という文言は、あたかも枕詞のように濫用されてきました。しかし実際には、それらの研究結果が、現実的な未来予測や対策の役に立ったという事例は稀であり、結局の所、それらは政策決定者に対して何の示唆を与えてこなかったと言えるでしょう。SEIB-DGVMは、JAMSTECにて開発が進められている地球統合モデルに結合されていきますが、この統合モデルのシミュレーション結果は、IPCC報告書にも掲載される予定です。研究の結果が政策決定者にまで上がっていく道筋を持つ事は、評価や予算、そして就職の機会を増す上で、大きなアピールになると考えます。

これらのメリットは、SEIB-DGVM特有の構造、すなわち個体ベースと明示的な空間構造、によって初めて提供できるものです。従来の炭素ボックス型生態モデル(たとえば50km×50kmの陸面内における葉・幹・根・土壌有機物間の炭素循環を記述するようなモデル)では、生態学者が興味を持っている対象と、モデルで想定しているスケールとの間に大きなギャップがありました。

なお我々は、SEIB-DGVMを利用するモチベーションを更に強めるために、「楽しそう、自分にも出来そう」と感じていただくことを目標として、さらに努力を続けていく所存です。そのために、モデル本体とは別に、可視化や分析のためのプログラムなど、モデルを運用するうえで便利なツールを開発して行く予定です。また、作業に必要とされる技術的な労力を軽減するため、SEIB-DGVMのコードは極力分かりやすく、また改造しやすい構造とするよう心がけています。

では、何故我々は、生態学者の皆様にSEIB-DGVMを使って頂きたいのか?

陸面生態系モデルは、多様かつ複雑なプロセスを扱いますので、いかに多くの生態学者の知見を集積できるのかというのが、持続的な開発を行う上でのポイントです。そのためには、SEIB-DGVMを植生動態と物質循環とを結びつける上での標準的ツールにしてしまうことが望ましいと考えています。すなわち利用者が増えることは、我々にとって歓迎するべき事なのです。

佐藤永

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