どの地域にどのような植物生態系が生じるのかは、気候環境に強く依存します。例えば、一年を通じて温暖で湿潤な地域には熱帯多雨林が、一年を通じて温暖だが乾燥している地域には、乾燥のパターンや度合いに応じて熱帯季節林・ステップ・砂漠が広がるといった具合です。他方で、植物生態系の分布や構造は、葉面からの蒸散量・陸面の太陽光反射率(アルベド)・生物量や土壌有機物としての固定炭素量・陸面粗度等々を変化させることで、気候環境にフィードバック的な影響を与えます。現在の植生分布や植生構造、そして気候環境は、このような植生−気候間の相互作用の結果であると考えられています。
したがって、地球温暖化などといった気候変化を予測する為には、このような相互作用を扱えるモデルが必要となります。その際に問題を複雑にしているのは、気候が変化しても、その新しい環境に適応した植物生態系が生じるまでに大きな時間遅れがあるという事です。つまり、少々の環境変動によって広大な森林帯が一斉に枯死して、その直後に新しい環境に適応した植物生態系が急速に出現する、などというシナリオは考えにくいのです。このような時間遅れは、数十年〜数千年のオーダーで生じると推測されていますが、これは種子の移入速度や既存植生の成長・更新頻度等々の関係で決まる複雑かつ多様な現象であり、いまだに信頼のおける予測は得られていません。
いわゆる動的全球植生モデル(DGVMs)は、現在地球が経験しているような急速に進行する気候変化の元における、植生帯の構造・分布・機能の過渡的変化をより的確にシミュレートするため開発されました。DGVMsは、気象・土壌データを入力に用いて、植生の短期的応答(光合成量や呼吸量など)と長期的応答(生物量や生態系の分布など)の両者を出力します。
従来のDGVMsと比較して、SEIB-DGVMを特徴づけているのは、グリッドボックスごとに幾つかの代表森林(または草地)をおき、その中で個体ベースで扱われた木本が定着し、成長し、そして死亡する点です。定着した場所から移動することの出来ない植物にとって、例えば多少の気温上昇よりも、隣の木が枯れて光環境が改善される方が、よほど大きな環境変化であり、このような局所的に生じる個体間相互作用を無視しては過渡的な植生変化を的確に予測する事はできない、というのがこの設計を採用した理由です。また、このようなモデルの設計は、既存の植物個体群動態の知見やデータとの親和性が高く、パラメーターの推定やモデルの検証が、容易かつ直感的であるという利点も併せ持ちます。このようなアプローチは膨大な計算を伴うため、地球シミュレーターでの運用を前提として初めて可能となりました。
SEIB-DGVMは、第一ヴァージョンが完成し、現在はシミュレーションの妥当性や精度をあげるための諸作業を行っています。そしてモデルの信頼性が十分に検証できた後に、地球統合モデルKISSMEへと結合され、気象-植生間の相互作用が未来の地球環境に何をもたらすのか、計算実験が行われる予定です。
紹介スライド (2005年10月06日版、別ウィンドウで開きます)
SEIB-DGVMに関する質疑応答 (2005年10月06日版)
SEIB-DGVM御利用のすすめ (2006年2月28日版)
平成19〜24年度の研究基本計画 (2007年8月5日版)
参考文献リスト (2007年3月25日版)